生体リズム

「繰り返される営みは生命の息吹?」

■背景
私たちの身のまわりに散見するリズミックな現象─携帯電話のバイブレーターの振動、昆虫の飛翔、メトロノーム、脈拍、獅子脅し、潮汐、地球の自転・・・、より広い意味では生物の生死もまた次世代への受け継ぎというリズミックな現象と考えることができます。一般的な化学反応が一度きりであるのに対し、繰り返し起こる反応や現象は生命の息吹を感じさせます。生物の示すリズミックな現象には周期の短いものから長いものまで多様ですが、繰り返される動作とその周期はどのような因子によって決定づけられているのでしょうか?ここでは、生物時計の奏でる約24時間(概日)周期の生体リズムを紹介します。



図1 シアノバクテリアのタンパク質時計の3大不思議


■研究概要
地球に生息する生物の多くは,昼夜の環境サイクルに適応するべく、長い進化の過程で生物時計(概日時計)を獲得したと考えられています。時計機能を有する遺伝子やタンパク質分子が複数の生物種で同定されており、それら分子の形状変化や相互作用によって、細胞や組織の時刻情報が維持・調整されていると考えられています。生体リズムのひとつに分類される生物時計は、次にあげられるような3つの性質を備えています。

1)自由継続性:外部刺激や信号のない恒常的条件でも24時間周期で自律的に発信する。
2)温度補償性:時計の振動数(周期の逆数)がほぼ温度の影響を受けない。
3)同調性:光や温度などの刺激に応答し、時計の位相を外界と同調させることができる。

■科学的・社会的意義
生物時計の有無それ自体は生物の生死に直結しているわけではありません。しかし、渡航もしくは帰国直後の時差ボケを思い出していただければ、生物時計に支障が生じると生活の質が著しく低下することは想像に難くないはずです。生物時計の奏でるリズムを理解して巧みに制御することができれば、生活の質を向上させるだけでなく、病気や疾患の予防にも繋がると期待されています。

■参考文献
1)石田真理雄,本間研一. 時間生物学辞典
2)秋山 修志,近藤 孝男. (2011). “KaiCタンパク質による概日時間” 細胞工学 30, 1269-1276.
3)秋山 修志, 向山 厚. (2011) “時計タンパク質KaiCの概日性分子鼓動” 実験医学 29, 1281-1284.
4)Akiyama S. (2012) “Structural and dynamic aspects of protein clocks: How can they be so slow and stable?” Cellular and Molecular Life Sciences 69, 2147-2160.

■良く使用する材料・機器
1) 実験試薬 (和光純薬株式会社
2) 冷却CCDカメラ,生物発光測定装置 (浜松ホトニクス株式会社)
3) 分光蛍光光度計 (日立ハイテクなど)


H24年度分野別専門委員
自然科学研究機構 分子科学研究所
秋山修志 (あきやましゅうじ)
https://bms.ims.ac.jp/AkiyamaG/index.html