用語集
アミドプロトン交換(Amido Proton Exchange)
タンパク質溶液の水を重水に置き換えると, アミドプロトンは溶媒の重水と置き換わる. 主鎖のアミドプロトンが水素結合を形成してα ヘリックスやβ シートなどの2 次構造に関与していると, アミドプロトンの交換速度は数千から数百万倍まで遅くなる. つまり,重水素との交換反応を追跡することにより, タンパク質分子の固さ・やわらかさを残基ごとに調べることができる.
アミノアシルソーム
高等真核細胞ではアミノアシルtRNA合成酵素同士が超分子複合体を形成し,バランスの取れたアミノアシルtRNAの合成を効率よく行う.これをアミノアシルソームと命名した.
アミノアシルtRNA 合成酵素
タンパク質合成の最初の段階で,トランスファーRNA(tRNA)に対応するアミノ酸をエステル結合させる酵素で,生成したアミノアシルtRNAはリボソームにタンパク質の材料となるアミノ酸を運搬する.
アミロイド線維形成の協同性
(Cooperativity of Amyloid Fibril Formation)
アミロイド線維形成が協同的に起きる場合には, 中間体は観測されず, 直径が10 nm 程度の成熟した線維が形成される. 他方, 段階的に起きる場合には, アモルファスな凝集体, オリゴマー, プロトフィラメントなどの中間的状態を蓄積してアミロイド線維が形成される.
RMSD
root mean square deviationの略.根平均自乗変位または根平均二乗偏差とよばれ,ある分子がある2つのコンホメーションをとるとき,それらの対応する原子座標間の変位を二乗して平均したものの平方根である.コンホメーションのばらつきや揺らぎを表す尺度として用いられる.
アンキリンリピート(ankyrin repeat)
多種多様なタンパク質中に存在し,分子間(または分子内)相互作用により機能制御に関与する33アミノ酸残基の繰り返し配列.細胞膜裏打ちタンパク質の一種アンキリンに見いだされたことから,その名がつけられた.
EC50(50% effective concentration)
薬物の効果を表す指標の1つで,最大効果の半分の効果をもたらす薬物の濃度のこと.阻害剤の場合には,効果が抑制(inhibition)であることからIC50ということもある.
異常分散(散乱)(anomalous dispersion)
測定に使用するX 線の波長が原子のK 殻やL 殻などの吸収端の波長に近いとき,共鳴現象によって強い散乱が起こります.このことを異常分散といいます.この付近では原子散乱因子が複素数として扱われ,MAD 法やSAD 法ではその虚数項f ″を利用します.“D”はdispersion かdiffraction ですが,本稿ではSAD には「散乱」のほうをあてています.
inferred shift method
電流波形I(t) から順応度Xe(t) を推論的に求める方法.まずおのおのの刺激の大きさに対する最大電流振幅をロットして,ボルツマン方程式でフィットしたI(X) カーブを描く.目的の電流波形I(t) を,I(X) カーブが移動した距離に変換し,その距離と時間との関係を表すXe(t) のグラフを作成する.
1H-15N HSQC スペクトル
(1H-15N Heteronuclear Single Quantum Coherence Spectrum)
スペクトルの横軸に1Hとの, 縦軸に15Nとの共鳴を示すもので, 単結合によりつながった1H-15Nペアにより1 つのピークが検出される. このようなペアは(プロリンを除く)すべてのアミノ酸の主鎖に1 つずつあるため, それぞれのピークがタンパク質中の各残基に対応する.
1H-1H TOCSY スペクトル
(1H-1H Total Correlation Spectroscopy Spectrum)
1Hの磁化を遠距離まで伝えることで, スピン結合している1Hどうしの相関が得られる. タンパク質では各アミノ酸残基内における1Hどうしのつながりがわかる.
AAA ファミリー(AAA family)
ヘリカーゼやシャペロンなど多彩な機能をもつ一群の相同なATPaseを,“ATPases associated with diverse cellular activities” にちなんでAAAファミリーと呼ぶ(ダイニンも含んだものは厳密にはAAA+ファミリーと呼ぶ).中空のリング状構造が特徴である.
2-5Aシステム(2-5A system)
インターフェロン誘導型抗ウイルス機構の1つ.2-5A合成酵素が,ATPを基質として2′,5′-ホスホジエステル結合で連結したオリゴアデニル酸(2-5A)を合成する.2-5AがリボヌクレアーゼLを活性化し,ウイルスmRNAの分解が起こる.
4-AP感受性K+チャネル(4-AP sensitive K+channel)
4-アミノピリジン(4-AP)で阻害されるK+チャネルの総称.4-APは,よく使われるK+チャネル阻害剤であり,かならずしも特異的ではないが限られた種類のK+チャネルを阻害する.
オートファジー
細胞質成分(タンパク質やオルガネラなど)をリソソーム・液胞に輸送し,分解する系で,選択的なタンパク質分解を担うユビキチン・プロテアソーム系とは対照的に,非選択的な大規模分解を担う.飢餓時の栄養源確保に加え,細胞内の恒常性維持に寄与している.
オープンループ制御(open loop control)
ピエゾステージの移動量を制御する際,なんらフィードバックを行わずに,予め定めた電圧で行う方法.途中の温度変化による影響はまったく帰還されない.
オントロジー(ontology)
由来は哲学用語.存在論(ontology).「存在するものとは何か」を問う哲学の分野.知識処理システムが対象世界を記述するのに必要とする概念と関係の形式的かつ明示的な定義.バイオロジーではGene Ontology のような階層化された統制語句の集合も含まれる.
CASP
タンパク質立体構造予測技術を客観的に評価することを目的として行われている,国際的構造予測コンテスト(正式名称はCritical Assessment of Techniquesfor Structure Prediction)である.
過渡回折格子法(transient grating)
2つのパルス励起光の干渉による光強度の縞によってサンプルを励起し,種々の化学変化を引き起こす.この反応による屈折率変化をプローブ光の回折として時間分解検出し,エネルギーや体積変化などの熱力学量を時間分解測定する手法.
逆遺伝学(reverse genetics)
従来の遺伝学は特定の表現系をもつ変異体を単離し,その形質を司る遺伝子を同定するという方向で研究が進む.これとは逆に精製タンパク質のアミノ酸配列またはゲノム塩基配列情報をもとに遺伝子を同定,変異体の作成へと進む遺伝学のこと.
逆平行アラインメント(antiparallel alignment)
ここではαへリックスの束構造にみられるような,隣接したαへリックスが逆平行に並んでいるようすを表す.この隣接したヘリックス間にはおもに疎水性相互作用が働いている.
ギャップペナルティ(gap penalty)
アラインメントを計算するときに無制限にギャップの挿入を許すとアミノ酸または塩基の一致度は高いけれども正しい進化的関係を反映しない結果になる.これを防ぐためにギャップを挿入するときに減点するスコアのこと.
キュムラント展開(cumulant expansion)
ある関数f(x)があったときに,その対数をとって展開すること(lnf(x) = λnxn/n!)をキュムラント展開とよぶ.その係数λnをn次のキュムラントとよぶ.多変数関数にも拡張できる.二次までだと正規分布に対応する.
キラルポリオール(chiral polyol)
キラルな多価アルコールの総称.抗がん剤,抗ウイルス剤などの医薬に利用できる糖類関連化合物の多くは,キラルポリオールをビルディングブロックとして合成されている.
グリッドコンピューティング(grid computing)
インターネットなどの広域ネットワーク上にある多くのコンピュータを1台の高性能マシンのように利用できる計算機環境.ユーザーはシステム的な背景を意識することなしに莫大な処理能力や記憶容量を享受できる.
グルタミン酸受容体(glutamate receptor)
神経伝達物質であるグルタミン酸には,チャネル型と代謝型受容体が存在する.それぞれ多くのサブタイプが知られており,機能的多様性を示す受容体である.特に,記憶・学習などの行動に重要な役割を果たす.
クローズループ制御(closed loop control)
ピエゾステージの移動量を補償するために,検出できる物理量を電気信号と制御回路に負帰還(ネガティブイードバック)して制御を行う方式.
クロマチン(chromatin)
通例,in vivoにおけるさまざまな状態のヌクレオソームを指す.染色体(クロモソーム)は,ヌクレオソームから,クロマチン,クロマチン線維,染色体構造までのさまざまな階層構造からなるダイナミックな構造体である.
ケーラー照明(Koehler Illumination)
一般的な顕微鏡の照明法. 視野絞り, 観察試料, 接眼レンズ内部の固定絞り, 網膜は光学的に共役な位置にあり, 網膜上に試料の像が投影される. また, 試料のフーリエ像(回折像)が対物レンズの後方焦点面(コンデンサー絞り, 光源と光学的共役)に形成される.
Km
酵素の基質に対する親和性を表す定数である.この値が小さいほど基質への親和性が大きくなる.酵素反応がMichaelis-Menten の反応式に従うとき,Vmax の1/2 を与える基質濃度であり単位はモル濃度で示される.
形空間(shape space)
n体系の配位空間(3n次元)から並進と回転の自由度を適切に除去してできる一般に3n ? 6次元の変形運動の空間.変形と回転の相互作用から決まるこの空間の「曲がり」は,さまざまな多体系の変形運動に普遍的に関与していると考えられる.
geminal スピン結合(Geminal Spin Coupling)
同一炭素に結合したメチレンプロトン間のスピン結合のこと. このスピン結合定数は大きく, 10 Hz 以上あり, 観測シグナルが1H軸方向に結合定数だけ隔てて分裂する.
ケモカインレセプター
細胞が産生するタンパク質で,それに対するレセプターをもつ細胞に働き,細胞の増殖・分化・機能発現を行うものをサイトカインとよび,特に白血球遊走作用があるものをケモカインとよぶ.ケモカインレセプターは,その特異的レセプターである.
顕微鏡対物レンズの温度依存性
(temperature dependence of microscope objectives focal length)
顕微鏡対物レンズの物点(試料面)が室温の変化などにより変化する量を単位温度あたりの値(μm/°C)で表示する.
光学異性体
エナンチオマーもしくは鏡像異性体とほほ同義的に用いられる.ある分子が分子式は同じであるが,右手と左手のように鏡に映した像のような関係にある場合に用いる.一対の光学異性体を表す際にアミノ酸や糖ではDL 表記法が用いられる.
構造ゲノムプロジェクト(Structural GenomicsProject)
約1万種類と推定されている代表的なタンパク質の立体構造をすべて決定することをめざす世界的な取り組み. 日本ではタンパク3000 プロジェクトとして知られる. 立体構造情報を利用した薬剤の開発などに資すると期待されている.
コンタクトオーダ(contact order)
タンパク質のおおまかな立体構造(トポロジー)の複雑さを表現する尺度として,Plaxcoらによって導入された量.天然構造中で接触する残基対が,配列に沿って平均的に何残基離れているかを表現する.
残余双極子相互作用(residual dipolar coupling)
溶液NMRで取得できる情報のひとつ.ファージなどの磁場配向分子共存下で生じる溶質分子の運動の若干の異方性を利用して観測される双極子相互作用.例えば,タンパク質の主鎖H-N等の残余双極子相互作用定数は,NOEの距離情報とは独立に立体構造決定に利用できる.
CT-HSQC
(Constant Time Heteronuclear Single Quantum Coherence)
通常の1H-13C相関スペクトルにおいて相関ピークが13C間のスピン結合により13C軸方向に分裂することを, 展開時間をある一定の値に保つことにより防ぐ測定法である.
GA3
GAは125種以上の分子種からなる一群のテルペノイド化合物である.GA3はその1つで,多くの植物種で生理活性を示す.
Gタンパク質型モーター(G-protein type motor)
キネシンやミオシンのATP加水分解部位の立体構造は,RasなどGタンパク質のGTPase部位と非常に相同性が高い.そこで,キネシンとミオシンをGタンパク質型モーターと呼ぶ.
Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor(GPCR)
リガンドと結合して,3量体GTP結合タンパク質を活性化することで情報を細胞内に伝える様式を示す受容体の総称.光,におい,味などの感覚受容や神経伝達あるいはホルモンによる細胞機能制御などでも重要な役割を担う.
シミュレーテッドアニーリング(simulated annealing)
コンピュータ中に設定した温度をゆっくり下げながら,温度に応じて採用/拒否が確率的に決まる変動を利用して複雑な解空間を広く探索し,準最適解を得る方法の1 つ.焼きなまし法や徐冷法ともいう.
小胞体Ca2+ポンプ(sarco(endo)plasmic reticulum Ca2+-ATPase)
P型カチオン輸送ATPaseの一員で,ATP分解に共役して細胞質Ca2+を細胞内Ca2+ストアである小胞体に汲み上げ,Ca2+による細胞機能制御に必須の役割を担う.3種の遺伝子によりコードされ,アイソフォームは組織・発達段階依存的に発現する.
小胞輸送(vesicular transport)
膜小胞を介して行われるオルガネラ間の物質輸送をさす.膜の移動と再構成の結果として起きている現象であり,物質の輸送という働きにとどまらず,オルガネラ形成や細胞表層の構築,受容体の分解による細胞内シグナリングの調節などの細胞の高次機能にも深く関与している.
深色効果(bathochromic effect)
分子の化学構造の変化に基づき吸収波長が長波長側へシフトする現象のこと.一般には,分子の共役系が長くなったり,助色団が適当な位置に近接し,π電子が動きやすくなった場合に起こる.
スケールフリー (scale-free)
系を特徴づける尺度(scale)が存在しないということ.頂点の次数分布がべき乗則にほぼ従うネットワークはスケールフリーネットワークとよばれる.正規分布では平均値という尺度があり平均値の周りに分布が集中するが,べき乗分布においてはそのような特徴的な尺度がなく,ある種の自己相似性が存在する.
ステップサイズ(step size)
モータータンパク質がアクチンフィラメントあるいは微小管上を滑り運動するとき,ATP1分子の加水分解で動く距離をステップサイズと呼ぶ.
スプライスバリアント
高等真核生物では,メッセンジャーRNA(mRNA)がスプライシングを受けてタンパク質に翻訳される部位が切り出されるが,何通りかの異なるスプライシングが起こることによって,異なる大きさのタンパク質が合成される.こうしてできた異なる大きさのタンパク質をスプライスバリアントという.
small GTPase
分子量23 k前後のグアニンヌクレオチド結合タンパク質群で,増殖・分化をはじめとする細胞の高次機能に重要な役割を担う.GTPase活性化因子とGDPGTP交換因子の助けによって,不活性なGDP結合型と活性なGTP結合型の2状態を行き来する.小胞輸送にかかわるsmall GTPaseとしては,Rab,Arfなどが知られている.
スモールワールド (small world)
頂点間の距離の平均値が小さく,かつ,クラスター性が高いネットワーク.人間関係のネットワークを考えた場合,前者の性質は数人程度の知り合いを経由すればほとんど誰にでも到達することができる,すなわち,「世間は狭い」ということを意味し,後者の性質は「友達の友達はまた友達であることが多い」ということを意味する.
生体膜融合(membrane fusion)
ウイルス,細胞,およびオルガネラなどの生体物質は,脂質の膜により囲まれており,他の環境と区別されているが,ある状況においてこれら膜同士は互いに融合する.生体膜融合は多様な生命活動において重要な役割を担っている.
絶対嫌気性細菌(Strict Anaerobic Bacteria)
分子状酸素存在下では生育できない細菌.Clostridium 属の細菌やメタン細菌, 硫酸還元菌などがある. 一般には, 生育できないだけでなく, 比較的簡単に死滅するので, 窒素充填した密閉容器を使うなどして培養する.
セリン/トレオニン残基のリン酸化/脱リン酸化による細胞内情報伝達
(signal transductionin cell achieved by phosphorylation/
dephosphorylation on Ser/Thr residues)
ある細胞内タンパク質のセリンやトレオニン残基の側鎖がリン酸化/脱リン酸化されることに依存して,その機能発現が調節されていること.このような化学修飾的な情報伝達手段としては,他にもメチル化やアセチル化などが知られている.
ゼルニケ位相差法(Zernike Phase Contrast)
1930 年代にドイツのZernike により発明された位相差法で, 0 次元回折光(透過光)と高次回折光(散乱光)との間にπ/2 の位相差をつくり出し, 位相を光の強弱に変換し(位相コントラスト), 透明試料の可視化を行う方法. オリジナル型は中心に微小孔の開いたπ/2 位相板(λ/4 板)を対物レンズ後の焦点面に挿入, 電子顕微鏡でもこの方法が採用されている.
ダイナミックプログラミング(dynamicprogramming)
与えられた問題を多段階に分割した上で,最初に部分的な最適解を求め,それを用いて次の段階の最適解を再帰的に求めて行くことによって全体の最適解を求める方法.
縦(横)緩和時間(longitudinal (transverse) relaxation time)
NMRにおける磁気の緩和は,静磁場方向(縦)での吸収したエネルギーの放出と,静磁場に垂直な方向(横)での核スピンの位相がそろった状態からランダムな状態へ戻る2つの過程からなる.それぞれの時定数をT1およびT2と記し,縦および横緩和時間とよぶ.
タンパク質の立体構造予測法
(method for protein structure prediction)
タンパク質のアミノ酸配列から,そのタンパク質の立体(天然)構造を予測する方法のこと.立体構造データベース中に,既知の類似構造の存在を仮定する方法(フォールド認識法)と仮定しない方法(ab initio法またはde novo法)に大きくわけられる.
タンパク質立体構造予測問題(protein structure prediction problem)
タンパク質が溶液中でとる立体構造はアミノ酸配列によってコードされており,従って原理的には,アミノ酸配列情報から立体構造を予測できるはずである.しかし実際に予測することは非常に難しく,タンパク質立体構造予測問題として40年来未解決の問題である.
ツーハイブリッド系(Two-hybrid System)
DNA結合ドメインを融合させたタンパク質と転写活性化ドメインを融合させたタンパク質がそれぞれ発現するようなベクターを酵母や大腸菌などに導入し,タンパク質間の結合の有無をレポーター遺伝子の転写活性化によって検出する方法.
DERA
2-deoxy-D-ribose-5-phosphate aldolase(EC4.1.2.4)の略称.アセトアルデヒドとグリセルアルデヒド3-リン酸のアルドール縮合反応を可逆的に触媒し,2-deoxy-D-ribose-5-phosphateを生成する.
DNA修復(DNA repair)
遺伝情報を損失したDNA損傷に誘起される変異を回避するために,損傷を修復する重要なプロセスであり,生物には多様なDNA修復機構(損傷の直接的・可逆的修復,除去修復,および組換え修復など)が備わっている.
DNA損傷(DNA damage)
突然変異や細胞死の原因となるDNA損傷(塩基損傷およびDNA鎖切断)は.放射線や薬剤,あるいは変異原などの外的要因,また代謝の過程で生じる活性酸素やDNA複製の誤りなどの内的要因によって引き起こされる.
デコイ(デコイ核酸)(decoy)
ここでいうデコイとはデコイ核酸のことを意味している.デコイ核酸自体が「おとり」となる形でターゲットタンパクを捕捉することにより遺伝子の活性化に重要な転写因子を阻害する核酸である.
点像分布関数(PSF:Point Spread Function)
輝点(点光源)がある系を通して, どのように3 次元的強度分布に広がる(ぼける)かを示す関数. 焦点面の断面はエアリーディスクとよばれる. 点像分布関数は, 1 次元の計測系のインパルス応答に相当する.
トキシン/アンチトキシン システム(toxinantitoxinsystem)
トキシンをコードする遺伝子とその阻害タンパク質・アンチトキシンをコードする遺伝子が形成するオペロン.当初,大腸菌F-プラスミド上に見いだされたが,その後,真正細菌や古細菌の染色体上にも存在することが明らかになった.
特徴周波数 (characteristic frequency)
個々の有毛細胞が最もよく応答しやすい最適周波数.
trans
異なるミトコンドリアの外膜上に存在するMfn分子が互いに作用して複合体を形成する際に,このトポロジーをtransとよぶ.これと対比する意味で,同一の膜上で複合体を形成する場合をcisとよぶ.
TonB
TonBはTonBoxと呼ばれるシークエンスを認識するタンパク質で,ペリプラズム領域に存在しN末に内膜貫通領域をもつ.他の内膜タンパク質ExbBとExbDと共にTon複合体を形成し,プロトン濃度依存的に鉄錯体やビタミンB12の能動輸送を行う.
2次構造(secondary structure)
タンパク質の場合,天然構造における主鎖の二面角や水素結合の規則性によって分類された部分構造のパターンのこと.α へリックスやβ ストランド(シート)などがある.タンパク質の立体構造が実験的に明らかになる以前に,Paulingらによって理論的に予言されていた.
日長(day length)
1日の昼と夜の時間のうち昼の時間の長さのことをいう.日長が12時間より長い場合を長日,短い場合を短日とよぶ.光周性は日長に反応する性質のこと.
ヌクレオソーム(nucleosome)
数珠状のクロマチンの繰返し構造に相当する基本構造単位である.数珠の玉の部分はヌクレオソームコアとよばれる.
ノマルスキー法(Nomarski Method)
1950 年代にSmith とNomarski により開発された位相法の1 つで, 位相の微分(実は差分)像を可視化する. わずかにずれた2 つのコヒーレント入射光を物体にあて, その後で2 つの光を重ねて干渉をとり, 位相コントラストを実現する. 微分干渉法ともよばれる.
配列プロファイル(sequence profile)
進化的な類縁関係のあるアミノ酸配列の多重アラインメントにもとづいて,配列の各部位でどのアミノ酸残基がどの程度出現するかを数値化した表.相同性検索で用いられるアミノ酸置換行列の一般化で,特に微弱な相同性の検出に威力を発揮する.
Barnes-Hut空間分割(Barnes-Hut spacesubdivision)
数万体の重力多体系のシミュレーションを,万有引力をカットオフせずに行うために,Barnes-Hutが考案した(Barnes, J. and Hut, P. (1986) Nature 324, 446-449).空間を入れ子になった大小のセルに分割する.具体的には,系全体を含む1つの大きなセルを8個のセルに分割する.それぞれをさらに8個のセルに分割する.さらに分割していく.これら多数のセルは,1本の8分木で表現できる.セルの中にある多数の星からの万有引力を,それらの質量重心からの引力で代表する.筆者は,クーロン力と重力が同じ式で表せる(質量あるいは電荷に比例し距離の2乗に反比例する)ことから,タンパク質の原子間のクーロン力の計算にBarnes-Hut空間分割を利用する手法(PPPC法)を考案した(286ページの文献2).水中のタンパク質を丸ごとシミュレーションしようとすると,原子電荷の数が数万になるために,この手法は必要不可欠であった.
パワースペクトル(power spectrum)
時系列データをさまざまな周波数の変動(正弦波)に分解し,その変動の大きさ(振幅の2乗)を,周波数にわたって並べたものがパワースペクトルである.パワースペクトルからはその時系列を生成しているシステムの時定数などの動特性を知ることができる.
ヒストン(histone)
塩基性のDNA結合タンパク質でコアヒストンとリンカーヒストンの2種類ある.コアヒストンはH2A,H2B,H3,H4の8量体で,クロマチンの単位構造であるヌクレオソームコア粒子を形成する.一方,リンカーヒストンはヌクレオソーム間を結ぶDNA領域に結合し,クロマチンの高次構造の形成に関与する.
HeLa細胞(HeLa cells)
子宮頚部扁平上皮がんより樹立された最初のヒト由来の培養細胞である.細胞株名は,組織を提供した女性の名前,He(nrietta)La(cks)に由来する.
Hillの式,Hill係数(Hill equation, Hill coefficient)
ある反応で基質濃度Sの変化に対するある成分の濃度変化Xがミカエレス-メンテン型の双曲線関数ではなくS字型曲線を描くとき,それをHillの式X =で表わすことができる場合がある.ここで,nはHill係数とよばれ,n>1は反応の機構に協同性のあることが示唆される.ただし,この式は特定の反応機構にもとづいているというよりも,フィッティングによって実験結果を特徴づけるための式と考えるべきだろう.
Vmax
酵素反応の速度論的解析を行う際に用いられる定数の1 つ.基質量が十分にあり,酵素濃度が一定のとき,単位時間あたりに最大どれだけの基質を反応生成物に変換することができるかで表され,酵素の最大活性を示す.
フォールディングシミュレーション(folding simulation)
計算機中でタンパク質の折れたたみを再現しようとする研究.1アミノ酸残基を1点で近似する粗視化モデルから,水をあらわに導入した全原子モデルまでさまざまなレベルでのシミュレーションが試みられている.
プルダウンアッセイ(pull-down assay)
タンパク質相互作用解析法の1つ.あるタンパク質Xにタグをつけて発現させ,タグを用いてタンパク質Xをカラムに固定し,タンパク質Xと結合するタンパク質を検出する手法.
FRET解析(FRET analysis)
特定の条件を満たす蛍光物質間で起こる励起エネルギーの遷移率の解析.遷移率が蛍光物質間の距離や双極子モーメントの重なりにより変化するため,FRET解析から物質間の距離の変化あるいは配置変化などを検出できる.
プロテイングラフティング(protein grafting)
鋳型のペプチドもしくはタンパク質の立体構造を保持させたまま,表面のアミノ酸残基を置換し,他の機能を付与する方法.
プロファイル(profile)
アミノ酸配列のアラインメントを,各部位における20種のアミノ酸出現頻度に応じて(配列の長さ)× 20の要素からなる表に変換したもの.塩基配列に対しては,表のサイズは(配列の長さ)× 4である.
放射線抵抗性細菌(radioresistant bacterium)
放射線に強い細菌群の総称.Deinococcus属の他にRubrobacter 属,Kineococcus 属,およびPyrococcus/Thermococcus属細菌などが知られている.
Fold recognition
構造予測したい目標タンパク質の配列と構造既知タンパク質の配列及び構造との適合度から,目標タンパク質に適合する構造を構造既知データベースの中から選択する方法のこと.通常の配列検索では目標タンパク質と配列類似の高いものが見いだせない場合に使う.
ホフマン法(Hoffman Method)
1970 年代にHoffman により開発された位相法で, 対物レンズ後の焦点面に位相板でなく吸収板を挿入し,位相コントラストを実現する. 吸収板を平行に3 区分し, 各区分の光透過量を, たとえば100 %, 15 %, 1 %のように調整する. この方法はナノフェッジを使うシュリーレン法(19 世紀以来の位相観察法)の拡張と考えられる.
HOMOとLUMO
分子内の各電子は,原子核と他の電子のつくる場の中で運動しており,分子全体に拡がって存在する分子軌道に属する.分子軌道に電子を割り当てた際,電子に占有された軌道の中で最もエネルギー準位の高い軌道をHOMO(Highest Occupied MolecularOrbital),電子が入っていない空軌道の中で最もエネルギー準位の低い軌道をLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)とよぶ.これらの軌道はフロンティア軌道とよばれ,電荷移動に関与する.
ホモロジーモデリング(homology modeling)
配列が類似しているタンパク質は進化的類縁関係にあり,立体構造も類似している.このことを利用して,構造予測したい目標タンパク質と配列類似性の高いタンパク質を構造既知データベース中から探索し,その構造をもとに目標タンパク質の立体構造モデルを作ること.
マイクロ熱量計(microcalorimeter)
反応に伴う熱量変化を測定する.等温滴定熱量測定(isothermal titration calorimetry)では,生体高分子に対して結合分子を滴定することにより,エンタルピー変化(ΔH)と結合定数(Ka)を決定できる.さらに,ΔG=ΔH-TΔS=-RTlnKaから,結合にともなう自由エネルギー変化(ΔG)とエントロピー変化(ΔS)を求めることができる.
膜動輸送(Cytosis)
細胞のエンドサイトーシス, エクソサイトーシスなどのcytosis に対応する訳で, 細胞内または外への物質輸送を総称し, 膜小胞と形質膜の区画領域を切り替える膜融合と細胞内の物質輸送を行う小胞輸送から構成される.
Mitofusin(Mfn)
ミトコンドリアの外膜上に局在し,ミトコンドリアの融合過程において中心的な役割を担うと考えられている分子量約8万の内在性膜タンパク質.哺乳類ではMfn1およびMfn2の2つのアイソフォームが見つかっている.
メタボローム解析(Metabolome Analysis)
幅広い種類の低分子化合物の定量的測定法(液クロ+質量分析)を利用して, 細胞内代謝中間産物の網羅的な測定を行う解析法. その応用範囲は広く, ダイナミックに変化する細胞の中の状態に関するまったく新しい知見が期待される.
MOZYME法
タンパク質の電子状態を計算するために開発されたMOPAC(後述)の中の高速計算ルーチン.MOZYME法を用いると,10,000原子を超える高分子の分子軌道計算が可能である.
MOPAC
半経験的分子軌道計算用の有名なプログラムパッケージ.ab initio計算におけるGaussianプログラムに相当する.現在の分子科学研究ではab initio計算が主流であるが,分子が大きくなると積分の数が増大し,計算機容量が問題となる.タンパク質を扱う場合,種々の積分計算を簡略化した半経験的分子軌道法はいまだ有用である.
ラセマーゼ
ラセミ化酵素ともいう.一対の光学異性体のうち,片方の異性体を基質特異的に異性化する酵素であり,アミノ酸を基質とする場合にはアミノ酸ラセマーゼと呼ばれる.いずれの異性体を基質にしても最終的にはL 体とD 体が1 対1 に混合したラセミ化がおこる.
リタデーション(Retardation)
単色光が複屈折性の試料に入射すると, e 波とo 波という偏光波が生じる. 複屈折のため, 試料透過後, e 波とo 波には位相のズレが生じる. このときのe 波とo 波の波面の遅れ(シフト量)を長さの単で示した物理量である.
リボヌクレアーゼL(ribonuclease L,RNase L)
真核生物の細胞質内に不活性型単量体(Lはlatentの略)として存在し,インターフェロン刺激により合成が誘導される2-5Aの結合により2量体化し活性化されるエンド型リボヌクレアーゼ.
硫酸塩呼吸(Sulfate Respiration)
硫酸塩を最終電子受容体とし, 硫化物塩まで還元することにより, 乳酸などの有機物を酸化する呼吸系. この間に生成する水素イオン濃度勾配を利用した電子伝達系によりエネルギーを獲得しており, 多くの酸化還元タンパク質が関与している.
Y61G ノックインマウス (Y61G knock-in mouse)
Myo1c の61 番目のチロシンをグリシンに置換したY61G-Myo1c を発現したノックインマウス.通常Y61G-Myo1c は,野生型と同様のATP 加水分解を行い,その機能もほぼ等しい.しかし,NMBADPとよばれるATP 類似物質と結合すると,その正常な機能は阻害され,actin にくっついたまま動かなくなる.