生命の起源

「ありえた生命の「かたち」をつくることで生命の起源の謎に迫る」

■背景
子供のころ動物園に行き、また、図鑑や各種媒体をみることで、皆さんもこの地球上に存在する生物種の多様性を実感していると思います。一方、皆さんが先祖から受け継いだ遺伝子を濃く共有している兄弟や親戚といろいろな点で似ているということについて、時代を遡ると、ヒトとチンパンジーの共通祖先、さらに全ての動物の共通祖先、動物と植物の共通祖先、地球上の全ての細胞の共通祖先へとたどり着くことが出来そうです。実際、現在の生命には、多様性と同時に、DNAの塩基配列に記された遺伝情報からアミノ酸を連結してタンパク質を生産する、さらにその過程に20種類のアミノ酸を使用する普遍遺伝暗号表が介在する、などの共通性質が存在します。では、この地球が生まれて、生命が存在しないところからどのように細胞が生まれたのでしょうか?他の天体で「細胞」が生まれるとして、どのようなかたちの細胞、いや、生命のかたちになるのでしょうか?そもそも、現在の地球生命のかたちが誕生することは必然だったのでしょうか?

図1 現在の生命の普遍遺伝暗号表と、実験室で作られたアミノ酸の数が異なる遺伝暗号表。

図2 現際の生命の遺伝暗号と異なる祖先型の単純化暗号に対して、専用の遺伝子を作成できる。

■研究概要
 生命の起源についての研究は、現在の生命たちの遺伝情報から遡るトップダウンアプローチ、および、生命がいないところからアミノ酸・核酸塩基、そしてタンパク質・RNAといった生体高分子が生まれるという過程を研究するボトムアップアプローチ、それぞれのアプローチに大別されてきました。この間には埋めきれないギャップが存在しますが、近年の合成生物学の進展により、生体高分子を組み合わせたシステムを創りだすことで、そのギャップが埋まりつつあります。
 私たちの研究室では、生命の起源における「ありえたかたち」を追求するため、現在のほとんどの地球生命に共通する普遍遺伝暗号とは異なり、アミノ酸の数が21になったり、19以下になった遺伝暗号表を作成してきました。さらに、それぞれの暗号表に対応した専用の遺伝子が存在することを示しました。これは、現在の地球生命の起源に至るまでに、遺伝暗号の共通性によって遺伝子を共有することができる生命集団が複数存在して、それぞれの集団の間で競争し、その結果勝ち残った集団が我々の共通祖先となったことを示唆しています。

■科学的・社会的意義
本研究は、生命の誕生からわたしたちに至った道のりを理解したい、という科学の根本的な疑問を追求するとともに、ありえた生命たちの姿を観ることで私たちの存在を相対化して考える材料を提供します。また、種々の生命システムを創り出せることは、これまでにない技術を提供することで、タンパク質工学にとどまらず、各種の生物工学の革新にも直結しています。

■参考文献
1)A Kawahara-Kobayashi, et al., D Kiga. “Simplification of the genetic code: restricted diversity of genetically encoded amino acids”, Nucleic Acids Research, 40(20):10576-84 (2012). featured article (top5% in the journal)
2)K Amikura, D Kiga. “The number of amino acids in a genetic code.” RSC Advances 3, 12512-12517 (2013).

■良く使用する材料・機器
1)実験試薬 (和光純薬工業株式会社
2)DNA合成、遺伝子合成(株式会社医学生物学研究所)



H26年度分野別専門委員
東京工業大学・総合理工学研究科/地球生命研究所
木賀大介 (きがだいすけ)
https://www.sb.dis.titech.ac.jp/