ヘムタンパク質
「生物にとって必須の金属タンパク質の機能メカニズムの研究」
■背景
ヘモグロビンに代表されるヘムタンパク質は生物に必須の金属タンパク質であって、多くの種類が知られており、また、現在も発見されつつあります。その機能メカニズムを解明するために結晶構造解析や分光解析など物理的方法が駆使されます。また理論的研究も盛んです。日本は国際的にヘムタンパク質研究の先頭集団に位置します。
図1.振動スペクトルで捉えた空気中の酸素分子とヘモグロビンに結合した酸素分子
左は空気中の気体酸素であり、O – O 結合距離は121 pmである。一方、右はヘモグロビンの鉄に結合した酸素であり、O – O 結合距離は128 pmとなり、気体にくらべて7 pmだけ長い。これは酸素分子の状態が両者で異なることを意味する。
■研究概要 ヘムタンパク質の機能は多岐に渡り、多くの研究者が物理的測定法を用いて研究を展開しています。筆者は、分子の振動数を測定する振動分光法(ラマン分光と赤外分光)を主な測定手段として、機能メカニズムを研究しています。図1に示すように酸素分子は空気中にある時とヘモグロビンに結合した時に異なる状態を採ることが振動スペクトルからわかります。こうした実験データは機能メカニズムの解明に役立ちます。ミトコンドリアにおける酸素呼吸、酸素分子をアミノ酸に取り込ませる酸素添加反応、ヘムタンパク質のモデルとなる鉄錯体が主な対象です。
■科学的・社会的意義 ヘムタンパク質が無ければ、私たちは生きていけません。したがって、生物学的重要性が極めて高いタンパク質です。ヘムタンパク質の機能メカニズムを知ることは、それがうまく機能しないときの対処法を私たちに教えてくれます。
■参考文献
1)T. Hayashi et al. (2015) "Higd1a is a positive regulator of cytochrome c oxidase", Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 112, 1553 – 1558.
2)T. Nomura et al. (2014) "Effects of Proton Motive Force on the Structure and Dynamics of Bovine Cytochrome c Oxidase in Phospholipid Vesicles", Biochemistry 53, 6382 – 6391.
3)S. Yanagisawa et al. (2013) "Resonance Raman study on indoleamine 2,3-dioxygenase: Control of reactivity by substrate-binding", Chem. Phys. 419, 178 – 183.
■良く使用する材料・機器
1)共鳴ラマン分光光度計(自作:株式会社日本ローパー、株式会社堀場製作所および浜松ホトニクス株式会社のCCD検出器、株式会社堀場製作所およびリツー応用光学株式会社の分光器、スペクトラ・フィジックス株式会社のレーザー、オリンパス株式会社の顕微鏡、株式会社ニコンインステックのレンズ、シグマ光機株式会社の光学部品、Semrockの光学フィルターなどを使用)
2)赤外分光光度計(自作:コヒレント・ジャパン株式会社のレーザー、株式会社堀場製作所の分光器、シグマ光機株式会社の光学部品などを使用)
3)実験材料 ウシ心筋、バクテリア、モデルヘム化合物、安定同位体標識化合物(大陽日酸株式会社、SIサイエンス株式会社等)
H27年度分野別専門委員
公立大学法人兵庫県立大学・生命理学研究科
小倉尚志(おぐらたかし)
https://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/biophys2/index-j.html