Q&A
生物物理学に関するご質問を受け付けています。
生物物理学全般や本サイトで紹介している研究について、ご質問がございましたらご連絡ください
高校ではそれぞれ別々の科目です。物理は、物質の根源を探って、現象を支配する法則を明らかにする科学です。生命は生体物質に支えられています。 生命現象を理解するということは、物理学の目標の1つといえます。生物物理は、あらゆる生命科学の基礎になる科学といえます。
大学の理科系の学部なら、たいていは生物物理の研究室があります。日本生物物理学会のウェブサイトには生物物理の研究室の紹介があるので、それを参考にしてください。 研究室の公開をしたり、質問を受付けてくれるところもあるから、直接、研究室の先生に電子メールを出して問い合わせてみるのもいいですね。
大丈夫です。でも、遺伝子組換え食品とか臓器移植とかの話題がよくニュースになりますね。そのときに、新聞の解説を読んだり、参考になる本を見たりしておくといいですね。 生物をとっている人の中には、物理を敬遠する人がいるかもしれないけれど、原理だけは理解しておいてください。化学が好きな人も、生物物理には向いています。
大丈夫です。生物をとっている人の中には、物理を敬遠する人がいるかもしれないけれど、生物のしくみについて興味を深めておいてください。化学が好きな人も、生物物理には向いています。
卒業してすぐ就職するなら、バイオ関連や、化学、食品、精密機器、情報など、広い分野に活躍の場があります。生物と物理の両方に強い生物物理の出身者は、社会にとても期待されています。また、研究者になりたい人、企業で研究開発をしたい人も多いので、より深く学ぶために大学院へ進む人も多いです。
生物物理の全体をまとめて捉えたいのなら、講談社ブルーバックスの「新・生物物理の最前線」がおススメです。日本生物物理学会のウェブサイトには、関連する本を紹介しています。
サッカーをするとき、ボールを蹴ったり、走りまわったりして、筋肉を使います。筋肉がどうやって力を出すかわかりますか?筋肉のタンパク質が化学エネルギーを力学的エネルギーに変えます。 このエネルギー変換のしくみを調べるのも、生物物理の最先端の研究の1つです。
タンパク質は20種類のアミノ酸が1本の鎖状に繋がり、さらにそれが折りたたんでできています。タンパク質の立体構造は、X線、電子線、中性子線、磁場などを当てることで、原子レベルで観ることができます。また、質量分析という手法でタンパク質の重さを調べて、アミノ酸が繋がる順番や翻訳後修飾されたアミノ酸の形を知ることができます。さらに、溶液散乱を使うことでタンパク質の大まかな立体構造がわかりますし、原子間力顕微鏡を用いることで、タンパク質の動きを捉えることもできます。
細菌は、栄養など生育に必要な条件がそろっていれば殺されない限り2分裂で増え続けます。したがって、人間でいうところの寿命はありません。しかし、生育に不適切な温度やpH、酸素や栄養の有無により増殖が止められると死んでいきます。
私たちと同様に水分は細菌にとっても必須のもので、乾燥すると死んでいきます。私の実験でも、清浄なガラス板に置いた大腸菌を室温で放置すると数日で死にました。しかし、細菌には様々な種類があり、中には非常に乾燥に強い菌もいますし、有機物があると特に死に難いようです。たとえば、乾物のスルメについたサルモネラで全国的な食中毒が2000年に発生しましたし、密封された粉ミルクの缶の中で生き続けることのできる腸内細菌の仲間がいて、乳児に感染した事例もあります。また、植物の種が寒い冬を耐えて春に芽が出るように、細菌も芽胞という種のようなものを作る菌種があり、芽胞は熱や乾燥にも消毒液に対しても抵抗性が強くて死なず、環境が良くなると発芽して増殖します。ですから細菌の全てが乾燥して簡単に死ぬと考えるのは無理があります。
濡れた場所を歩いて靴底が濡れると汚れた感じがするという子供さんの感覚は鋭いですね。例えば、昔の給食作業場では、食材の切り落としなどの生ごみを手早く洗浄除去するために大量の水が使われ床は常時濡れているような状況でした。しかし、細菌の生息しにくい環境にするため、今ではHACCPと言われる衛生管理方法に従って乾燥した床の厨房に転換されています。
ただし、これは大量の食べ物を作る場所だからであり、私たちの生活環境全てを菌の少ないものにすることはできませんし、するべきではありません。細菌がいるお蔭で地球上のすべての物質は分解され、また違う生き物のために利用する物質循環が可能になっているのですから。子供さんは土の上を駆け回っていると思いますが、土の中には1gに数百万以上の細菌がいるのは普通です。良質な畑の土ならもっとたくさんいるでしょう。そんな環境でも生きられるように私たちの体には免疫力がそなわっているのです。濡れたトイレの床だけを気持ち悪がって避けても意味がないのです。仮にトイレの床から靴底にたまたま悪い菌がついても、トイレから出て直ぐに靴底を素手で触る訳ではありませんし、菌が靴底を通り抜けてくるわけでもありません。仮に通り抜けてきても私たちの皮膚は強固なバリアー機能をもっており、普通の菌は皮膚を突破して体内に侵入することはできません。むしろ、靴底に着いた菌は、歩いているうちに土や砂粒と環境中にいる圧倒的多数の無害な菌によって薄められてしまうでしょう。また、わが国では靴を脱いで家に上がりますし、帰宅後に手洗いする習慣もあります。衛生にメリハリを付けて要点を押さえていれば、心配ないと教えてあげてください。常在菌を皮膚から取ってしまうと、今度はカビが生えやすくなります。何事もバランスが大切で、健康な人が無菌環境を指向する必要はないのです。
西川禎一(大阪市立大学名誉教授,帝塚山学院大学教授)