日本生物物理学会では、多くの書籍を出版しております。今まで編集してきた書籍については以下のリストをご覧ください。また、日本生物物理学会は、日本生理学会誌「Journal of Physiological Sciences」の編集にも参画しています。
生物物理学は,生命科学の分野に最新の物理的手法を持ち込むことで,生体内で営まれている驚くべき現象を次々に明らかにしています.本書では主に,前作「生物物理の最前線」出版以降に明らかとなった最新の研究成果が,やさしく解説されており,生物物理学の入門書としても最適です.
生物物理学(バイオフィジックス)は,生命を物理科学的に理解するとともに,その応用を目指す学問であり,その対象は分子・細胞・個体・集団の全域にわたる.分子や膜の構造と機能,細胞情報変換,エネルギー変換,運動機能,形態形成,脳機能などを実験と理論の両面から解明しようとしている.第1期・全11巻に続き,次世代を担う若い世代に,生物物理学の重要性と面白さを分かりやすく伝え,21世紀の生命科学の旗手になってもらいたいという願いを込めて企画された.考え方や研究方法の要点を予備知識なしに読み通せるように工夫するとともに,研究者自身が何が面白くて何を 目指しているのかを生き生きと伝えられるよう努力した.
古い時代の生体エネルギー変換の研究では,能動輸送するプロトンと高エネルギー分子ATPが主役であった.しかし近年,生体エネルギー変換の中核をなす光合成アンテナ系・反応中心,チトクロムbc1複合体,チトクロムc酸化酵素などの巨大膜タンパク質の構造が明らかにされ,さらに各種最先端分光技術・遺伝子操作技術を駆使した実験的研究および理論的研究によって正確な電子の流れの様子がかなり精密にわかってきた.その結果,生体エネルギー変換を支えているのはプロトンではなく,電子の運動であることが広く認識されるようになった.電子やプロトンの運動をもとに生体エネルギー変換の仕組みにせまる本巻の内容は生物物理学的研究の一つの典型として捉えることができるであろう.
水は本当に神秘的だろうか.一般に小さくて軽い分子は常温常圧で気体であるが,唯一の例外が水である.この例外は水分子間の強い相互作用から生まれ,水に特別な性質を付与する.水はあらゆる他の物質をよく溶かす.さらに水の中では実に様々な化学反応が容易に進行する.常識的すぎてかえって見えないこの事実が実は物質にない水の固有の性質,神秘である.本書では水のこの根源的な性質が,生体でどのように使われているか,生体高分子から生理機能にわたって化学熱力学の定量的な言葉で記述することを試みた.
すべての生命活動のエネルギー源であるATPがどのように作られるかという命題に,化学浸透圧というきわめて明快な概念を与えたのがP.Mitchellであるが,この概念の背景となる分子実体が明らかになるまで,生体エネルギー論は一般にはなじみの薄い分野であった.現在までにこれら多くの分子実体が,イオンポンプやトランスポーターとしてタンパク質および遺伝子の両面から明らかにされ,さらに,電子線解析やX線結晶学によってその構造が明らかになり,反応機構の一部が模式的に表されるようになった.本書では,H+やNa+,K+などを輸送するイオンポンプや糖,アミノ酸,ATP,薬剤などの有機分子のトランスポーターに関して,それらの分子実体,輸送反応の構造に基づいた分子機構,調節機構や他の因子との相互作用などについて紹介し,研究の歴史的背景や今後の展望について概説する.
最近,ドメイン形成や多形構造など,集団として挙動することによってはじめて現れる脂質膜の物性・ダイナミクスが,多くの生体膜の形態形成・機能発現に関与していることが注目されている.今までシンガー&ニコルソンモデルにイメージづけられた「流動的で均一な」生体膜の概念を刷新し,「生体膜とは,特定の機能ドメインを持った,二次元的にも三次元的にもヘテロな構造体であり,流動的な状態とヘテロで硬い状態とのダイナミックな位相変化が,細胞のいろいろな生理機能発現に関わっている」という新しい概念を示した.
生体は停止することのない非常に動的なシステムである.また,その形が機能と密接に関連しているシステムでもある.これらの特性は分子から細胞,個体,生態系に至るすべてのレベルでつらぬかれている.現在,生物学はポストゲノム時代に向けて,プロテオーム(個体を構成するタンパク質の1セット)解析をめざした戦略がねられている.その際,生命現象の本質的理解のためには,構成要素間の反応経路の解析だけでは不十分なことは明らかである.つまり,細胞内には多種類の異なった機能をもつ膜小胞や超分子システムがあり,それらは変形,分裂,融合,移動してこそ機能を存分に発揮出来るのである.したがって,これらの細胞内器官を輸送し,空間的に配置する細胞骨格のネットワークが生命活動に必須である.また,このネットワークは細胞全体の形をコントロールすることによってシステム全体の効率を最適化し,細胞が好ましい環境に移動する運動を可能にするものでもある.細胞骨格ネットワークこそが,生物を生物たらしめているものといっても過言ではない.本書では,生きものの単位ユニットである細胞のレベルに焦点をしぼり,その三次元的形態の構築と動きのメカニズムに関する最新の研究を紹介する.
本巻は「生物の形は自己構築により形成される」という考えを基盤にして編纂された.たとえば,砂山の斜面が呈する曲線や,砂丘の風紋に見られる縞模様,正六角形を基本とした雪の結晶パターンなどはいずれも自然界で行われる自己構築の結果である.自己構築は無機物の世界に限ったことではない.生物では遺伝子が自己構築の材料と場を設定して自己構築が演じられ,そのあと次の設定が続くと考えてよい. 自己構築は物理化学的現象である.そこでは数学や物理学などの数理的手法が重要な役割を果たしてきた.したがって,生物の形の研究にも数理が必要になる.これまで生物学は生化学に代表されるような化学が大きな役割を果たしてきた.そしていま,これに数理が加わるのである.遺伝子産物が出そろっただけでは生物の形はわからない.わかるには多くの場合数理が必要である.
現在の分子生物学においては,生命のある現象を分子まで遡ってその原因を求め,その分子に対応する遺伝子の組合せとして生命を理解しようとしており,その生命観はある意味,たいへん機械的である。もちろん,現在の生物に,かちっと決まる論理機械の面があることは否定できない。しかし,そのような機械的な側面からのゆらぎは現に存在する。これはどうやって説明すればよいのだろうか。こういった生物のゆらぎをふまえて,生命を部分と全体の間の相補的な関係としてとらえ,「生命がシステムとして働いている」ための見方をつくろうというのが複雑系生命科学の目的である。そこでは,個々の要素からなるシステム全体の性質が決まって,逆に個々の要素の性質が与えられていくという,ダイナミックな循環を真剣に扱いながら生命システムの特性を明らかにしようとしている。しかし,複雑システムとしての生命の研究は,まだ完全に確立したものではない。むしろ,本書を通して,新しい立場をつくるための試みが提示され,今後の生物学の方向が探られる。もちろん,生物は多様であり個性的であり,簡単な普遍的論理で記述され尽くすことはできないかもしれない。しかし,そうした多様性や個性が何故普遍かといった問い自体は普遍的なものである。システムとして生命の特性を明らかにしていくことで,「生きているとは何か」という究極の問いへ迫る。
生命の起源と進化は,従来,物理学というより化学あるいは地球生物学の視点から,時には高度の数理科学的視点を取り入れてきた.本書は,地球生物学的視点はなるべく排除し,個別的に付随する副次的現象にとらわれないために,進化現象の普遍性を重視し,実験室における単純化された系に対する進化実験のデータを重視した.
バイオテクノロジー,情報技術(IT)と並んで最近テレビや新聞でも話題になっているのがナノテクノロジーである.人類が文明の中で創り出してきた機械は,メートルのサイズからセンチメートル,ミリメートルへとだんだんと細かく精緻になってきた.パソコンやテレビゲームの心臓部であるCPUの内部ではマイクロメートルを越える精度の加工が施されるようになり,また走査トンネル顕微鏡を応用して金属原子の一つ一つを思いのままに動かすことができる技術も登場した.フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノメートルの太さを持つ新たな材料も注目を集めている.ナノメートルサイズの技術が21世紀の産業を支える新たな技術として期待されるのは当然であろう.
実は生物は何十億年も前から,このナノメートルサイズの世界でのノウハウを蓄積してきている.マイクロメートルのサイズの細胞で,ナノメートルやこれ以下のサイズの分子や原子・イオンなどを扱うためには,ナノメートルの大きさの道具がどうしても必要であった.特定の分子や原子だけを強力に結合し,特定の反応だけを迅速に起こさせるために,生物が長い進化の中で育て上げたナノメートル技術の粋が生体ナノマシンである.生体ナノマシンの設計には,「検証」あるいは「評価」という過程が重要な位置を占める.より確実な設計をめざすためには,設計されたマシンの形や性能,働きをなるべく多面的に調べて,設計の効果を検証することが必要になる.そして,なぜそのような結果になったのかを,より深く探る研究に必然的につながることになる.これは,生体ナノマシンに関する科学そのものであり,現代の生物物理学の最も重要な研究分野の一つである.検証の段階を「設計」に含めて考えるならば,現代生物物理学のあらゆる知識や技術が,生体ナノマシンの分子設計に生かされることになる.
生物物理学は,生命のあらゆる現象に興味をもつたいへん欲張りな学問である.生命科学における20世紀最大の成果は,遺伝子DNAの発見である.この発見によって,生命の起源,進化,細胞・個体のきのう,疾病の機構など,生命の基本的機能・機構の背後に遺伝子とタンパク質という明瞭な物質の働きがあることが明らかになり,今日の分子生物学の隆盛がある.しかし,すべての遺伝子とコードされるタンパク質の正体がわかればすべての問題は解決するのであろうか?残念ながらそう簡単ではない.本巻の主旨は,生物物理学の現在の達成点を位置づけ,先のゴールに近づくために近未来に何をなすべきかを一線の研究者にできるだけ素直に吐露してもらおうということである.第1章は,研究者の本音を俯瞰することによって,「生物物理学とはなにか」という疑問に答えようという試みである.優れた研究は普遍性や再現性をもつとともに,その研究者しかなしえない個人性,独創性,芸術性を内包している.基礎科学が個人の営為に基づくことは言うまでもないが,一方で研究の学際化と巨大化によって,費用のかかるプロジェクト型研究チームに比重が傾きつつあるのも事実である.第2章では,これらの問題を分析する中で総体としての生物物理学の将来を考察する.第3章では,研究者に,この学問分野と個人としてのかかわりを自由に書いていただくことによって,その秘密の香りを読者に嗅いでもらおうという主旨である.
生命は地球上に誕生して以来,母なる太陽の光により育まれてきた.生物は生命を維持していくためのエネルギー源として,適切な生育環境を獲得するための情報源として光を利用している.
光生物学はこうした光と生命とのかかわりを理解することを目指した学問である.動物の視覚,植物の光合成などがその代表例であるが,生物と光とのかかわりはもっと多様である.動物は眼だけでなく脳や皮膚で光信号を感じ,太陽の光の周期や強度に適応している.植物は光信号により発芽,形態形成を調節している.生物の進化にも光が深くかかわっている.進化の頂点にたつヒトがフロンなどの新化学物質を作り出したことで地球のオゾン層が破壊され,生物に深刻な紫外線傷害を生じている.光は一方,がんや心の治療など多くの医学治療の有力な手段として注目されている.
光学技術の最近の発展は目を見張るものがある.極微弱光の検出法の発展や,太陽光をはるかに越える高輝度光源の出現により,生命現象の秘密のベールが一枚一枚はがされようとしている.光生物学ではこのように「光によりひき起こされる生物現象」だけではなく「光による生命現象の解明」に新しい展開がみられようとしている.光生物学は「光が拓く生命科学」を先導する役割を担っている.光と生命のかかわり合いは,多くの学会(光医学,放射線影響学,眼研究,生化学,生物物理学,化学,光化学,動物学,比較生理生化学,植物学,植物生理学,光合成,農芸化学など)により進められてきた.わが国ではこれらの学会が協力して「光生物学」を振興する目的で日本光生物学協会を運営している.
本シリーズは,日本光生物学協会の啓蒙活動の一環である.光生物学が新しい発展を迎えようとしている今,「光が拓く生命科学」の現状と将来の夢を,わが国の第一線研究者から皆様に伝えたい.
本シリーズは,専門を選択する前の若い世代や一般の読者に理解出来るよう分かりやすく解説しているが,研究者にも十分読みごたえある内容を意図している.
生命は光とともにある.生物は地球に誕生して以来,生命を維持していくためのエネルギー源として,あるいは適切な生育環境の情報源として光を用いてきた.最近の研究によれば,生命と光とのかかわりは,私たちが考えている以上に多岐に渡っていることが明らかになってきた.本巻ではこうした光と生命とのかかわりの中で,生物が光環境からの情報を受け取る仕組みに焦点を絞って解説.
地球生命の進化は「光」というキーワード抜きには語ることができない.現在では光とは直接関係ないように見える事柄も,進化を遡ると意外にも光と密接に関わっている場合がある.また,オゾン層の破壊も,生命進化という観点から見ることによりはじめて問題の重要性が明らかとなる.光環境の変化はまた,生物進化の結果でもあり,変化した環境によりさらなる進化がひき起こされてきた.本書では「光」を合い言葉に生命の進化が語られる.そこでは,光合成生物の共生が繰り返されるダイナミックな進化のドラマが展開する一方,視物質レチナールと情報処理機構としての脳の進化に支えられた,光情報処理の精緻なメカニズムを目にすることになる.さらに進化の結果,光環境を自ら演出できるようになった生物発光の世界も垣間見る.
太陽系の惑星の一つである地球上の"生命"は,母なる太陽からもたらされる"光"と本質的なかかわり合いを持っている.その一つの局面は,光合成に代表されるエネルギー源としての光の利用である.一方,生命は情報源としても太陽の光を多面的に利用していることがよく知られている.それら生命としての営みや光合成の効率は,直接的または間接的に,光によりコントロールされている.本書では,これらの分野での最近の研究成果のエッセンスをとりまとめた.またグローバルな視点から,地球温暖化など地球環境変化の地球生態系への影響や,究極の化学反応といわれる人工的光合成の実現の可能性などについて論じている.
生物は太陽の光を浴びて進化し現居住区の光環境に順応しながら生存している。その中で特筆すべきは,30億年以上の長い進化の過程で,光障害を防御する機能を獲得したことである。しかし近年の成層圏オゾンの破壊による光環境の変化は,生態系のバランスをくずし異常な事態に向かう可能性を秘めている。本書では,第1章でオゾン層破壊と地上の太陽紫外線環境を展望し,第2章では生物が進化の過程で獲得してきた紫外線障害の修復機能を,第3章では皮膚にターゲットを絞り,皮膚と光,特に紫外線が皮膚に与える損傷と防御機構について,第4章では人体をマクロにとらえ,健康にかかわる眼の光障害,光老化,光ストレスなどの今日的話題を,第5章では生物の遺伝情報が光障害とどうかかわるかをDNAの目で見る.
本書は光による生体への影響,光による多くの疾患の治療,診断などの最前線をわかりやすくまとめたものである.光には可視光,紫外線,レーザー光などがあり,その各々の特色を生かした治療が臨床医学のなかで活躍している.いずれを用いた治療も手術治療に比べると生体への侵襲が少なく,安全であるため今後ますますその適応は増すものと考えられる.光は医学診断にも重要な役割を果たしており,光が生体にこれほど貢献していることを本書からご理解いただきたい.
ちょうど100年前レントゲンによるX線の発見が非侵襲診断の道を拓いたように,“光診断”は21世紀の新しい夢の医療技術となるだろう.たとえば“光造影剤”がX線撮影でのバリウムの役割を果たしたり,“遺伝子造影剤”によって,病気に関係した遺伝子発現の画像診断などが可能となる.光診断の幕開けは近い.
最近の光学顕微鏡周辺技術の進歩には目を見張るものがある。新しい顕微鏡技術、新しい機能性蛍光試薬の開発、蛍光標識技術の進歩が、生命科学研究に新しい潮流を作りつつある。本書は、その技術開発と研究の最前線で活躍している研究者が、最先端の研究成果だけでなく、基盤となる基礎技術や原理について書き下ろした解説書。
放射光が脚光を浴びている.紫外線からX線にかけての強い光源として多数の放射光施設が建設され,相次いで利用に供されている.日本でも放射光利用研究の歴史は長いが,分子研の UVSOR,高エネルギー機構のPF ,そして播磨の SPring-8 と各エネルギー領域を代表する施設が登場し,この分野の研究開発は飛躍的に発展した.生物科学・生命科学の分野では,おもにX線領域が利用されているが,タンパク質の構造解析からがんの診断まで大きく広がっている.この巻ではそれらのさまざまな利用の状況を分かりやすく紹介し,将来への夢を語る.
本シリーズは,生物物理学特有のエッセンスをわかりやすく伝える入門書として,特に生物物理学的測定・解析法,理論モデルの原理と意義について具体例や豊富な図を使って解説し,多少とも難解な箇所はコラムとして分離するなど参考書なしでも読み通せるように配慮している.
生命現象に重要なタンパク質はサイズや柔らかさの違いなど極めて多様性に富んでいるが,一方でアミノ酸配列がまったく異なるのに類似性をもつこともある.この立体構造の構築原理を解明するためにどのようなアプローチで研究を進めているのだろうか?
構造生物学は生命現象=生物の機能を生体高分子の構造,ひいてはその高分子をつくりだす遺伝子から解き明かそうとしている.遺伝子がどのように振る舞いその結果どう作用するのか,次世代生物学としての期待がふくらむ.
タンパク質や核酸といった生体高分子の立体構造とその生物的機能との関係を解釈する研究分野=構造生物学が隆盛をきわめている.どのような方法で構造を決めているのだろうか?得られた構造をどう評価しているのだろうか?
生体運動の分子メカニズムの研究は,半世紀にわたり多くの科学者の興味を引き続けてきた.近年の顕微鏡技術の進歩・立体構造の解明・人工運動システム・1分子操作システムの導入により,遂に分子モーターの働く仕組みが解明されようとしている.
生体膜を貫通するタンパク質=イオンチャネルは細胞応答のあらゆる場面に登場する第一級の分子である.研究方法・働きとその原理・生理的重要性を専門外の読者が抱く疑問点に答えるかたちで解説する.
生物が生存競争に生き残るためには外部刺激を的確にキャッチし適切な行動をとることが必須条件である.そのため発達した高感度で特異的なスーパーセンサー.この多種多様なセンサー(レセプターと情報伝達系)が系統づけられ新たな展開を始めようとしている.
電気生理学と静的解剖学が中心であった脳研究にイメージング技術が導入され目をみはる発展が進行している.生きた細胞や分子の微細胞構造を観察することを可能にしたこの技術の動向・技術的基盤・将来の方向を紹介し,命と心の新しい謎解きの世界へと誘う.
超複雑なシステムである脳・神経系の解明は従来の分析的アプローチの積み上げでは著しく困難である.これを克服する新しい総合的アプローチ(神経生理学-工学の融合・計算論的神経科学など)とはいったいどのようなものだろうか?
ヒトにとって最も身近でありながら難しい謎だった心のメカニズム.神経科学と脳のソフトウェアに迫る計算機科学の急速な進歩により脳と心の問題が自然科学の対象なりつつある.心の解明を大胆に追求し,読者を脳と心の生物物理学に誘う挑戦の書.
動植物の野外での生活を調べる学問=生態学にゲーム理論など数理モデルやコンピュータシミュレーションで迫る新しい生態学=数理生態学への招待.マクロな生命に生物物理学はどこまで迫れるのだろうか?
ヒューマンゲノム計画は、ヒトをはじめとした各種生物が持つ全遺伝子のカタログと全遺伝子産物(タンパク質およびRNA)のカタログを作り出す。すなわち生命系を構成する部品のカタログは近い将来にほとんど見いだされるだろう。しかしながら、部品がわかっても、部品間のつながり、つまり結線図のようなものが解明されなければ、生命のシステムとしての働きを本質的に理解することはできない。実験的にも理論的にもヒューマンゲノム計画をこのような観点から捕え、本書ではミクロ生物学からマクロ生物学へと、全体を3つの章に分けて構成した。本書はゲノム解析に関する他の図書と比較して、第1にゲノムの機能的な側面に、そして第2に理論的な側面に重点を置いている。
学士院恩賜賞対象研究・集大成の書
蛋白質の「自然による絶妙なる設計物」としてのおもしろさを探求しながら,ダイナミックな像と働きを浮き彫りにする.20世紀は量子力学に代表されるミクロな原子世界を支配するルールと, DNA二重らせんに代表される生物情報(=蛋白質一次構造)を支配するルールとを,人類が共に知り得た画期的な時代である.このふたつを結び付けることにより,われわれはすべての蛋白質の働きをミクロ世界のルールに基づきて解き明かすことができてもよいはずではないか?本書は,さらにこのような疑問にも答えを与える.
「生体膜」研究の問題意識およびアプローチの方法とその結果を明快に示し,その機能を構造と関連づけて記述してある.20世紀後半の生体膜モデルの確立,単一分子解析から単一細胞での解析,再構成膜系での解析へと進み,「脳研究の世紀」といわれる21世紀へつながる生き生きとした研究展開を感覚的に理解できるように工夫してある.ホットな話題がどこにあるか,こんなことがわかった,こんなことがわからない,など具体的な例をあげて興味のある例を示した.
最近,分子1個を高精度で見て操作する技術が開発され,生命科学の研究にブレークスルーをもたらそうとしている.この技術を使って,生物分子機械は人工機械とはまったく異なるナノピコの世界で働いており,そのしくみも本質的に異なることが示される.分子機械の動作は,例えば,コンピューター素子と比べると一見極めてあいまいで百万倍もゆっくりしている.しかし,それが構成する細胞や脳はコンピューターなど人工機械では達成できないようなすばらしい働きをする.なぜだろうか?分子機械のあいまいさに柔軟な生物システムの原点を探る.
私たちの脳の中でおきている現象を観察できるイメージング法が発達してきており,見たり,聴いたり,匂いや味を感じたり,触れたとき脳にどの様な変化が起きるのかが間もなく分かろうとしている.知覚研究の新しい展望を前にして,そのセンサーである感覚器のメカニズムがどこまで分かっているかを明らかにする.また,私たちは5感を通じて,多様な情報を得ている.最近の生物物理・分子生物の研究により,これら異なった情報を受け取るセンサーを構成している情報伝達分社お互いに驚くばかり似ていることが明らかになった.本書では知覚のセンサーの普遍性を分子レベルで理解しようとする.
DNAから生物の進化まですべての物質が原子や分子からできていることを突き止め、物質間に働く力の作用を解明して大きな成果をあげた現代物理学の手法を、同じく原子・分子からできている私たち生物に対しても適用し、複雑な生命の成り立ちをより原理的に解き明かそうとするのが生物物理学です。これによって、タンパク質、DNA、細胞と生体膜、脳と神経、筋収縮と生体運動、生物が光を捕らえる仕組み、進化など、生命活動の要となっている現象がどこまで解明されたのか、最新の成果をやさしく紹介します。