天然変性タンパク質
特定の構造を取らずに特異な機能を発揮するタンパク質;天然変性タンパク質
■背景
タンパク質は、細胞内外に豊富に存在する生命現象にとって不可欠な分子であり、ヒトでは10万種類にも及ぶと言われています。タンパク質は長年、それぞれが特定の構造を取ることが機能発揮に重要であると考えられていました。しかし、構造を取らないまま機能するタンパク質が存在することがわかってきました。ヒトのタンパク質の半数以上が構造を有さずに機能するとも言われており、このようなタンパク質を「天然変性タンパク質」と呼びます。構造を持つタンパク質と天然変性タンパク質は解析方法が異なる部分も多く見られます。
図1 天然変性タンパク質の多次元核磁気共鳴分光スペクトル
図2 天然変性タンパク質の特徴 (文献1)。その中でも、液-液相分離の結果形成される液滴が近年高い注目を集めている。
■研究概要
天然変性タンパク質が機能する際、特定の構造を取らないまま機能するものと、構造を取ることで機能するものが存在します。それらは、コンピュータにより予測したり、実際にタンパク質溶液を円偏光二色性分光法や核磁気共鳴分光法により分析したりすることで、タンパク質の構造特性を解析することができます。
天然変性タンパク質は他のタンパク質やDNA、RNAとも相互作用することがあり、相互作用解析法として特に有効な手法が多次元核磁気共鳴分光法です (図1, 文献2)。
■科学的・社会的意義
天然変性タンパク質は、高度に混み合った細胞内を区画化する現象である「液-液相分離」に関与しているとも言われており (文献3)、天然変性タンパク質はますます注目されています (図2)。また、ヒトのタンパク質の半数が天然変性であるにもかかわらず、創薬ターゲットとしては発展途上であり、新規モダリティとしても注目されています。
■参考文献
1)Hibino E and Hoshino M. (2020). “A novel mode of interaction between intrinsically disordered proteins.” Biophysics and Physicobiology 17:86-93.
2)Hibino E, et al. (2016). “Interaction between intrinsically disordered regions in transcription factors Sp1 and TAF4.” Protein Science 25(11):2006-2017.
3)Boeynaems S, et al. (2018). “Protein Phase Separation: A New Phase in Cell Biology.” Trends in Cell Biology 28:420–435.
■良く使用する材料・機器
1) 極低温プローブ付き900 MHz核磁気共鳴分光器(Bruker)
2) 円二色性分散計(日本分光)
3) 安定同位体試薬 (太陽日酸)
R5年度分野別専門委員
名古屋大学・創薬科学研究科
日比野絵美 (ひびのえみ)
https://researchmap.jp/emih