一般社団法人 日本生物物理学会(生物物理について)

心筋収縮系の運動特性:自励振動現象(SPOC)と心拍

(2010/06/03)

 心臓は、ペースメーカー細胞の生み出す電気信号に応じて休むことなく収縮と弛緩を繰り返し、私たちの体に血液を送っています。ペースメーカー細胞は心臓の上部に存在して周期的に興奮(脱分極)し、心臓内の決まった経路に沿って電気信号を心筋細胞に伝えています。このペースメーカー細胞の興奮にともなう心臓の収縮・弛緩の頻度を、私たちは心拍数(毎分何拍か、で表す)と呼んでいます。ここでは、私たちの生命活動になくてはならない心臓のリズムがどのように調節されているのか、最近の知見に基づいて解説したいと思います。

1)心筋の収縮の仕組み  心臓は、階層構造を持っている臓器です。つまり、心臓⇔心筋細胞⇔サルコメア(超分子集合体)⇔タンパク質(アクトミオシン分子モーター)という階層構造が存在します(図1)。逆に言えば、アクトミオシン(アクチン-ミオシン)分子モーターの集合体がサルコメアを構築し、サルコメアの集合体が心筋細胞を構築し、そして心筋細胞の集合体が心臓を構築しています。サルコメアは、長さ~ 2μm、幅~ 1μm の構造体で、心筋細胞内の収縮装置、すなわち収縮系を構成している最小ユニットです。サルコメアが直列につながったものを筋原線維と呼び、筋原線維が束になったものを筋線維と呼びます。サルコメアには、よく知られている太いフィラメントと細いフィラメントに加え、タイチン(コネクチン)と呼ばれる弾性フィラメントが存在します。タイチンは、サルコメアの静止張力の発生に寄与している巨大な弾性タンパク質で、その大きさは約3-4 MDaであることが知られています。タイチンの生理的役割はこれまであまり知られていませんでしたが、最近の研究によって、サルコメア形成時に太いフィラメントと細いフィラメントの長さを決定する“ものさし”としての役割を果たしていること(論文1)、また、外力に応じ、それ自体が伸び縮みしてサルコメアの構造を変化させ、サルコメアの収縮力を可逆的に、かつ瞬時に調節している仕組みが明らかになっています(論文2,3)。太いフィラメントを構成するミオシンは、細いフィラメントの主要な構成要素であるアクチン分子と相互作用し、ATPを加水分解することによって力学的な力を発生します(注:太いフィラメント、細いフィラメントは、それぞれミオシン分子、アクチン分子が重合してできています)。一分子生理学の発達によって、ミオシン一分子がATPの化学エネルギーをどのように力学エネルギーに変換しているのか、その仕組みが明らかになっていますが、この説明は本稿では割愛します。細いフィラメントにはカルシウムイオン受容タンパク質であるトロポニンが存在し、カルシウムイオンがこれに結合することで細いフィラメントの構造が変化し、ミオシンとアクチンの相互作用が可能になります。ですから、トロポニンは、筋収縮においてON-OFFスイッチとしての役割を果たしていると言うことができます。では、次に、心筋細胞内において、カルシウムイオン濃度がどのように調節されているのか、その仕組みを見てゆきましょう。



図1: 心臓の階層構造。サルコメア、心筋細胞、そして心臓という階層構造が存在します。心臓の上部には洞房結節があり、他からの刺激なしに自動性の活動電位を規則正しく発し、ペースメーカーとしての役割を果たしています。サルコメアは、異なる種類の生体分子が多数集まって構築されている超分子集合体で、その中には三種類のフィラメント(太いフィラメント、細いフィラメント、タイチン)があります。ミオシン分子はATPをADPと無機リン酸(Pi)に加水分解し、その化学エネルギーを力学エネルギーに変換する分子モーターです。心筋、骨格筋を問わず、筋収縮は、太いフィラメントと細いフィラメントが滑り込むようにして起こっています。そして、この収縮力が血液を拍出するという、心臓のポンプ機能を生み出しているのです。

 心筋細胞の細胞膜では、ペースメーカーの活動に応じて周期的な電気的活動が起こっており、これが心臓を規則正しく、かつ協調的に拍動させる源になっています(図2)。この電気現象は、活動電位と呼ばれています。活動電位とは、細胞膜におけるイオン(主に、ナトリウムイオン、カリウムイオン)の通過にともなう細胞内外での一過的な電位の変化のことで、全ての興奮性細胞において生じます。すなわち、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンが細胞膜に存在するイオンチャネルを通って移動するプロセスを通じて膜電位が変化するのです。A.L. HodgkinとA.F. Huxleyはこの一連の過程を定式化することに成功し、1963年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。心筋細胞が他の興奮性細胞と違ってユニークな点は、活動電位の時間が長いこと、その間にカルシウムイオンが細胞内に流れ込んでくるということです。ですが、細胞外から流れ込んでくるカルシウムイオンが、心筋サルコメアの収縮を直接誘起するわけではありません。心筋細胞内には筋小胞体と呼ばれるカルシウムイオンの貯蔵庫が存在するのですが、細胞外から流れ込んできたカルシウムイオンは筋小胞体を刺激し、その中のカルシウムイオンが放出されてトロポニンに結合し、筋収縮のスイッチがONになるのです。心臓の拡張期には、細胞内のカルシウムイオンは、筋小胞体にあるポンプによって再び筋小胞体の内部に取り込まれ、トロポニンからカルシウムイオンが乖離し、筋収縮のスイッチがOFFになります。


図2: 心筋細胞における興奮収縮連関の模式図。左上は心筋細胞の膜電位を示します。活動電位の各相は、第0相から第4相までの番号で呼ばれることもあります。図では、各相におけるイオンの流れを示してあります。第0相においてナトリウムイオンが細胞内に流入すると、膜電位に依存したカルシウムチャネルが開口し(オレンジ)、細胞内にカルシウムイオン(Ca)が流入します(第2相)。このカルシウムイオンは筋小胞体にあるリアノジン受容体(RyR)を刺激して、細胞内にカルシウムイオンが放出されます。トロポニンに結合したカルシウムイオンはサルコメアの収縮を誘起しますが、細胞内のカルシウムイオン濃度が低下すると、トロポニンからカルシウムイオンが乖離し、サルコメアは弛緩します。細胞内のカルシウムイオン濃度が低下するメカニズムは主に二つあります。一つは、筋小胞体のカルシウムポンプ(ATP駆動型)によって再び筋小胞体内に取り込まれるメカニズム、もう一つはNa-Ca交換系(NCX)によって細胞外に出てゆくメカニズムです。動物種にもよりますが、一般に、前者の方が後者よりも使われている比率が高いことが知られています。ごく一部は、細胞膜にあるカルシウムポンプ(ATP駆動型)によって細胞外にくみ出されます。このように、心筋細胞内のカルシウムイオン濃度は、細胞膜の電気的興奮に基づいて厳密にコントロールされているのです。

2)自励振動現象(SPOC)  上で見てきたように、心臓の拍動調節においては、カルシウムイオンがその中心に座っていて、収縮系は細胞内カルシウムイオン濃度の変化に応じて収縮と弛緩を繰り返すだけの単純なON-OFF装置であるように見えます。しかしながら私たちの研究グループは、収縮レベルの低い中間活性状態(例えばカルシウムイオン濃度が10-6 M程度の時)において、心筋の収縮系が自発的に振動するという現象(SPOC)を発見しました(論文4,5)。すなわち、中間活性状態において、サルコメアには力を発生する分子モーターと力を発生しない分子モーターが共存することになりますが、これらが半サルコメア単位で共同作業を行うことによってSPOCが誘起されるのです。このことは、SPOCが、溶液環境の変化にともなって生じる、いわゆる化学振動とは異なり、心筋収縮系自体の力学特性が加わった、非常にユニークな非線形の化学力学振動であることを示しています。また大切なことは、心筋では収縮期においてさえも細胞内カルシウムイオン濃度が10-6 M程度までしか上がらないという点です(注:骨格筋では、収縮にともなって細胞内カルシウムイオン濃度は10-5 M程度まで上昇し、ほぼ全てのアクトミオシン分子モーターが活動します)。つまり、心筋においてSPOCが起きる条件というのは極めて生理的だと言うことができます。ですから、カルシウムイオン濃度の変化とは独立に中間活性状態において心筋が自発的に振動するという事実は、収縮系が心拍調節に関与していることを強く示唆していると考えられます。実際、私たちは、SPOCの振動数と動物の静止時の心拍数との間に強い相関があることを見出しています(論文6,7)。すなわち、心拍数の高い小動物の心筋ではSPOCの振動数は高く、心拍数の低い大動物の心筋ではその振動数は低いことが分かりました。心筋の収縮系にとって、SPOCは固有振動に相当し、心拍由来の細胞内カルシウム濃度変化は強制振動に相当します。SPOCの振動数と心拍数との間に強い相関があるという事実は、心臓拍動におけるSPOCの生理的意義の可能性を強く示唆し、従来の心臓の拍動メカニズムの理解に新たな視点を与えるものと言うことができるでしょう。SPOCの生理的意義を明らかにするため、私たちは現在、生きた小動物の心臓から一個の心筋細胞の細胞内情報(カルシウムイオン濃度やサルコメア長など)を抽出する技術の開発に取り組んでいます。

[参考文献]
[1] J. Udaka, S. Ohmori, T. Terui, I. Ohtsuki, S. Ishiwata, S. Kurihara, N. Fukuda. Disuse-induced preferential loss of the giant protein titin depresses muscle performance via abnormal sarcomeric organization. Journal of General Physiology 131, 33?41, (2008).
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[3] N. Fukuda, Y. Wu, G. Farman, T. C. Irving, H. L. Granzier. Titin isoform variance and length dependence of activation in skinned bovine cardiac muscle. Journal of Physiology (London) 553, 147-154, (2003).
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[6] D. Sasaki, H. Fujita, N. Fukuda, S. Kurihara, S. Ishiwata. Auto-oscillations of skinned myocardium correlating with heartbeat. Journal of Muscle Research and Cell Motility 26, 93-101, (2005).
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東京慈恵会医科大学・細胞生理学講座 福田 紀男