光受容
「光受容分子の不思議:フェムト秒~ペタ秒における研究」
■背景 生物にとって欠かせないものの1つに“光”があります。生物内で光を受ける実体は、光受容分子(主には光受容タンパク質)です。光受容分子の理解には、物理や化学を基盤とした様々な計測法が重要で、そこでは数百フェムト秒で起こる光吸収から(1フェムト秒=1,000兆分の1秒)、地球誕生の後、数百ペタ秒で起こった分子進化過程(1ペタ秒=1,000兆秒)まで、30桁に及ぶ時間領域が対象となります。
図1 様々な生物から単離・精製した光受容分子(レチナールタンパク質)
図2 光受容分子・レチナールタンパク質の構造と機能発現部位(A)と、発色団の光異性化に伴う構造変化(B)。
図3 光受容分子・レチナールタンパク質分子の様々な機能と、それをもとにした光操作ツール開発。
■研究概要 我々ヒトだけでなく、細菌、カビ、藍藻など様々な生物における光受容分子にレチナールタンパク質があります(文献1)。私たちは、微生物由来のレチナールタンパク質(微生物型ロドプシン)を自然界の様々な生物種から見つけてきたり(図1、文献2, 3)、その形・形の変化・分子進化を物理化学的な様々な手法で調べたり(図2、文献4, 5)、それらを利用した、光細胞操作ツールの開発(図3、文献6, 7)を行っています。
■科学的・社会的意義 光受容を研究することは、光と生物の関係を明らかにするだけでなく、光を使った新しい計測法や、それに適した分子の開発など、広く生命科学研究をカバーします。そのため、この分野は、他の分野との親和性が極めて高く、今までも、これからも、生物物理学のみならず自然科学において、重要な分野であり続けるでしょう。
■参考文献
1)Sudo, Y. (2012). “Transport and sensory rhodopsins in microorganisms” CRC Handbook of Organic Photochemistry and Photobiology, the 3rd edition, CRC Press, Boca Raton, pp. 1173-1193.
2)須藤雄気, 河野俊之, 児嶋長次郎 (2005) "無細胞タンパク質合成系を用いた膜タンパク質発現の新規手法" 実験医学 23, 1933-1937.
3)須藤雄気 (2008). ”真正細菌から得られた2つの機能を持つフォトクロミック光受容体ホモログ” 生物物理, 49, 25-26.
4)割石学、本間道夫、須藤雄気 (2010). “光で動く微生物―ロドプシン分子による光受容と情報伝達機構” OplusE「特集:光アクチュエーター」, 519-524.
5)須藤雄気、井原邦夫、本間道夫、加茂直樹 (2011) “高度好塩性微生物の“目”:センサリーロドプシンへのCl-イオン結合の役割” 極限環境微生物学会誌 10, 23-29.
6)須藤雄気 (2006) "光駆動イオンポンプから光情報伝達への機能変換の試み" 生物物理 46, 330-335.
7)須藤雄気、本間道夫 (2012). “光受容タンパク質による微生物の光センシングの理解とその利用” 薬学雑誌 132, 407-416.
■良く使用する材料・機器
1) 実験試薬 (和光純薬株式会社)
2) 暗視野顕微鏡システム (株式会社オリンパス)
3) 冷却CCDカメラ (浜松ホトニクス株式会社)
4) 安定同位体 (大陽日酸株式会社)
5) 各種分光器 (株式会社島津製作所、アジレント・テクノロジー株式会社、日本分光株式会社、株式会社東京インスツルメンツ)
H24年度分野別専門委員
名古屋大学・大学院理学研究科
分子科学研究所・生命錯体分子科学研究領域
須藤雄気 (すどうゆうき)
https://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~bunshi4/fourth.html