一般社団法人 日本生物物理学会(生物物理について)

電子顕微鏡

「分子や原子の世界を可視化する」

■背景 顕微鏡は、目では直接見えない小さな物体をレンズで拡大して観えるようにする機器です。一般に言う「顕微鏡」は、光源に可視光線(波長360 nm 〜 830 nm)を使用する光学顕微鏡であるため、光の波長よりも小さな物体(ウイルス粒子やタンパク質分子)は拡大して観ることができません。一方、電子顕微鏡は、光源に電子線(通常:波長 0.0037 nm 〜 0.0019 nm)を使用することで、これよりも小さな物体、さらには分子や原子の世界を直接可視化することができます。電子顕微鏡では、光学顕微鏡のガラスレンズに変わる磁石のレンズで電子線を屈折させて像を拡大します(図1)。電子顕微鏡は高い解像度を持っていますが、主に試料を真空中に置かないといけないこと、電子線が透過できる厚さ(一般には数百nm以下)でないといけないこと、などの制約があります。


図1 透過型電子顕微鏡の光学系。基本的には光学顕微鏡と同じ光学系を用いるが、電子線は磁石のレンズで屈折させることと、鏡体内は真空でないといけないことが異なる。

■研究概要 近年、広く用いられるようになったクライオ電子顕微鏡法は、溶液中のタンパク質複合体などの生体試料を急速凍結することで電子顕微鏡による画像観察を可能にします(図2)。得られた電子顕微鏡画像からタンパク質複合体の粒子像を抽出して、投影像ごとに分類して平均化し、これを逆投影することで、もとの立体的なタンパク質複合体の画像を再構築します。



図2 クライオ電子顕微鏡法によるタンパク質複合体の単粒子構造解析。x

■科学的・社会的意義 電子顕微鏡、そしてクライオ電子顕微鏡法を用いてタンパク質の構造や薬剤との相互作用の様子を可視化して調べることができます。X線結晶解析やNMRとことなり、溶液中や生体内のタンパク質の構造を「その場」することができます。このことにより、天然に近い状態でのタンパク質の構造と機能とを明らかにできるとともに、さらにはそれが原因となる病気の治療法や治療薬の開発につなげることができます。

■参考文献 1)Burton-Smith RN, Murata K. (2023) Cryo-electron Microscopy of Protein Cages. Methods Mol Biol. 2671, 173-210.
2)宋 致宖、村田和義 (2023) 「クライオ電子顕微鏡によるタンパク質の構造解析」,タンパク質構造解析手法とIn silicoスクリーニングへの応用事例, pp.83-94 技術情報協会 ISBN 978-4-86104-971-2
3)ソン・チホン、村田和義 (2023) 自然科学研究機構におけるクライオ電子顕微鏡支援 クライオ電子顕微鏡ハンドブック(難波啓一、加藤貴之、牧野文信 監修), pp.381-383 (株)エヌ・ティー・エス ISBN 978-4-86043-804-3 C3047

■良く使用する材料・機器 1) 300kV クライオ電子顕微鏡 TITAN Krios G4(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
1) 200kV 透過型電子顕微鏡 JEM2200FS(日本電子)
2) クライオFIB-SEM Aquilos2(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
3) 試料凍結装置 Vitrobot MarkIV(サーモフィッシャーサイエンティフィック)

H24年度分野別専門委員
自然科学研究機構・生命創成探究センター
村田 和義 (むらた かずよし) http://www.nips.ac.jp/struct