一般社団法人 日本生物物理学会(生物物理について)

生化学的手法

「生体分子の機能や特徴を化学的な方法によって明らかにする」

■背景 生物の体は細胞によって構成され、細胞機能は細胞を構成するタンパク質・核酸・脂質などの生体分子によって担われています。それらの生体分子がどのような機能を持つのか、どのような分子的特徴を持つのかについて、化学的な手法を用いて研究が行われて明らかにされてきました。

■研究概要 例えば、解糖系やクエン酸回路は、糖や糖代謝物を基質として種々のエネルギー分子などを生成する数多くの酵素から成り立っています。それぞれの酵素反応は、細胞抽出物と基質(候補)分子を混ぜた(再構成した)際にどのような生成物が生じるか、より理想的には、特定の基質に対して細胞から精製された単一種類の酵素を作用させると何が生成されるのかを化学的に解析することにより明らかにされてきました(文献1)。生物(学)の教科書に数多く記されている酵素反応は、このような「生化学的手法」によって明らかにされています。これらの生化学実験は、「試験管内再構成実験」(実際には試験管ではなく、小さなプラスチック器具を使うことが多いですが)とも呼ばれます。その一方で、生きている細胞内で特定の生化学反応を追跡したいという研究者からの「需要」もあります。近年では、細胞内に特定の分子を認識して、その分子の増減に伴い蛍光や発光が変化する分子センサーを利用して、細胞内での生化学反応(酵素反応など)を追跡する手法も発展しており(文献2、図1)、それらも広義の「生化学的手法」といえると思います。


図1 細胞内での生化学反応(cAMPの生成)を追跡する発光センサー

A 発光cAMPセンサーの設計 発光酵素であるルシフェラーゼの断片がcAMPを結合する配列によってつなげられており、細胞内cAMP濃度が上昇して、センサー分子がcAMPを結合するとルシフェラーゼが機能を持つかたちとなり、発光反応が起こる。
B 発光cAMPセンサーを発現した培養細胞でのcAMP応答(アデニル酸シクラーゼの活性化)の追跡 培養細胞に、Aの発光cAMPセンサーとβ2アドレナリン受容体を強制発現させ、β2アドレナリン受容体を活性化するリガンド(イソプロテネロール)を添加した。活性化されたアドレナリン受容体は、Gsタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMP分子の生成(細胞内cAMP濃度の上昇)を誘起する。そのcAMP応答が発光量の増加として追跡される。

■科学的・社会的意義 生化学的手法は、重要な生物機能がどの分子のどのようなはたらきによって生み出されているのかを明らかにするための強力な研究手法です。また、近年では人工的に設計あるいは機能改変した酵素などを用いて、医薬品などの有用な分子を生化学的に効率よく大量生産しようという取り組みも行われています。

■参考文献 1)Krebs H. A., (1970). " The History of the Tricarboxylic Acid Cycle." Perspect Biol Med 14(1): 154-172.
2)Binkowski B. F. et al., (2011). "A Luminescent Biosensor with Increased Dynamic Range for Intracellular cAMP." ACS Chem Biol 6 (11): 1193–1197.

■よく使用する材料・機器 1) 紫外可視分光光度計、蛍光分光光度計 (株式会社島津製作所、日本分光株式会社)
2) カラムクロマトグラフィーシステム (GEヘルスケア・ジャパン株式会社、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)
4) プラスチック器具類 (ワトソン株式会社など)
5) 実験試薬 (和光純薬株式会社など)
6) プレートリーダー (プロメガ株式会社)

R8年度分野別専門委員
神戸大学・大学院理学研究科生物学専攻
塚本寿夫 (つかもとひさお)