一般社団法人 日本生物物理学会(生物物理について)

非侵襲計測

「細胞外電位計測による心毒性検査への応用」

■背景 新しい薬を開発するには、何に効くかということは重要なことですが、副作用が少ないということも必要不可欠なファクターになっています。どんなに効果のある薬でも副作用で障害が起きては使用することができません。特に、心臓は重要な臓器であり、心臓に対する副作用をみつけることは必須です。このような副作用を薬剤開発の早期に発見することによって、薬の開発がスムーズに進むことが期待されます。



図1 細胞外電位計測システム。



図2 アガロース微細加工技術と細胞配置技術。(a)細胞外接着因子であるコラーゲン(ゼラチン)をコートした基板上にアガロース(寒天)を添加する。(b)スピンコートすることによってアガロースを均一に広げる。(c)近赤外レーザで局所加熱することによってアガロースのみを溶かす。(d)マイクロピペットを用いて細胞を一つ一つ配置する。(e)インキュベータで培養する。



図3 直線状心筋細胞ネットワークによる活動電位の伝播測定。

■研究概要 心臓に対する薬剤の毒性を検査するために、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞から分化した心筋細胞等を用いて、薬剤を加えた時の細胞外電位を非侵襲的に計測することによって、電位波形の変化から薬剤の毒性を判断する装置を開発しています(図1、文献1)。さらに、細胞ネットワークの配置を制御するためにアガロース(寒天)を用いた細胞配置技術(図2、文献2)により、電極基板上に直線状の心筋細胞ネットワークを作製し、活動電位の伝播速度のゆらぎを用いて精度の高い心毒性検査技術の開発にも挑戦しています(図3、文献3)。

■科学的・社会的意義 本研究は、ヒト幹細胞から分化した心筋細胞を用いて非侵襲的に心毒性検査する技術を開発するものであり、これまで偽陽性で開発が中止になっていた薬の再利用や、偽陰性のために臨床試験で副作用が発見されるリスクの低下、動物実験に使われている実験動物の数を減らす効果があると期待されています。

■参考文献 1)T. Tanaka, S. Tohyama, M. Murata, F. Nomura, T. Kaneko et al. (2009) “In vitro pharmacologic testing using human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes,” Biochem. Biophys. Res. Commun., 385, 497-502
2)T. Kaneko, K. Kojima and K. Yasuda (2007). “Dependence of the community effect of cultured cardiomyocytes on the cell network pattern,” Biochem. Biophys. Res. Commun., 356, 494-498
3)T. Kaneko, F. Nomura, et al. (2014). “On-chip in vitro cell-network pre-clinical cardiac toxicity using spatiotemporal human cardiomyocyte measurement on a chip.” Scientific Reports, 4: 4670.

■良く使用する材料・機器 1) 倒立型リサーチ顕微鏡 IX-71 (オリンパス株式会社
2) 実験試薬 (和光純薬工業株式会社

H27年度分野別専門委員
法政大学・生命機能学科
金子智行 (かねこともゆき)
https://www.hosei.ac.jp/seimei/index.html