光回折・光散乱
「光を自在に操り、隠れた情報を照らし出す」
■背景
これまで我々はミラーやレンズ、回折格子を用いて、光の伝搬・回折を制御して、様々に応用してきましたが。近年では空間光変調器(Spatial Light Modulator; SLM)等を使用して光の位相や振幅を制御することで、光の伝搬・回折を更に自在に制御できるようになってきました。また、光散乱計測は測定試料の隠れた情報を我々に教えてくれます。これらの光学的・物理学的技術は生物学の世界で、どのように応用されているのでしょうか?
図1 LCOS型空間光変調器(SLM)を用いた光波面制御。A:光学系の一例。B:SLMに入力する位相ホログラムの一例。C:ホログラム(B)をSLMに入力した際に得られる再生像(シミュレーション)。
図2 光ピンセットの原理と、ホログラフィック光ピンセット。A:光ピンセットの原理。B:SLMを用いて複数点同時に光ピンセット操作を行うホログラフィック光ピンセット(HOT)の模式図。C:HOTの実験の様子。直径3 ㎛ のポリスチレンラテックス粒子を格子状に9点並べている。細胞を並べることも可能である。
図3 フローサイトメーターの原理。A:実験系。B:前方散乱光と側方散乱光。前方散乱光の強さは、主に細胞自体の大きさに関係する。側方散乱光は、主に細胞内の核や小器官、顆粒などの細かい内部構造に関係する。
■研究概要
SLMを用いて光の波面を制御することで、光の伝搬・回折を自在に操ることが可能になり、非常に自由な光パターンを作り出すことができます(図1)。この能力を活用することで、例えば顕微鏡視野内に複数の光スポットを作り出し、光ピンセット(Optical tweezers)操作するホログラフィック光ピンセット(Holographic optical tweezers; HOT)が研究されています(図2、文献1)。
光散乱の強さやパターンは、測定対象の大きさや屈折率を反映します。これを利用して、フローサイトメーターのように細胞の特徴を計測したり(図3, 文献2)、細胞分散液中に浮遊している細胞の数を溶液の濁り具合(濁度)から計測したりすることに利用されます。
■科学的・社会的意義 光回折を制御することで自在に光を操ることで、実現可能な光計測やイメージング、物体加工の手法が驚くほど広がりました。また光散乱計測のような光を用いた計測手法は、生きた細胞を生きたまま、与えるダメージを最小限に抑えて実現できるため、生物学分野でも頻繁に利用されています。新たな光を用いた計測手法は現在も次々と開発され続けています。
■参考文献
1)Johtaro Yamamoto and Toshiaki Iwai, (2012). “Highly controllable optical tweezers using dynamic electronic holograms”, Curr. Pharm. Biotechnol. 13, 2655-2662 (2012).
2)中内啓光 監修, (2004). 「新版 フローサイトメトリー自由自在」, 秀潤社.
■良く使用する材料・機器
1) 蛍光顕微鏡システム IX-71 (オリンパス株式会社)
2) ケージシステム全般 (ソーラボジャパン株式会社)
3) 光子増倍管 (浜松ホトニクス株式会社)
H27年度分野別専門委員
北海道大学・先端生命科学研究院
山本 条太郎 (やまもと じょうたろう)
https://altair.sci.hokudai.ac.jp/infmcd/