一般社団法人 日本生物物理学会(生物物理について)

数理モデル・数理生物学

「分子の熱ゆらぎ・細胞の自発ゆらぎの生理機能的意義を探る」

■背景 生物は,たとえ同一の遺伝型や環境下にあっても,自発性や非遺伝的な個性を示し,行動にゆらぎを伴います。生物はすべて細胞から成り,細胞はすべて分子から成りますが,分子の機能には熱ゆらぎ,細胞の機能には化学反応に由来するゆらぎが伴います。そうした「要素」がゆらぐ世界で,「全体」はどうやって矛盾なく成立しているのでしょうか?また,こうしたゆらぎの存在に,何か積極的な生理的意義があるのでしょうか?



図1:研究方針の概念図

■研究概要 こうした疑問に答える為,分子レベルではモーター分子やシグナル伝達分子のダイナミクス(文献1),細胞レベルでは細胞の自発的な運動や走性応答に着目し(文献2),数理モデルによる研究,そして実験との恊働研究を通じてアプローチしています(図1)。統計物理学,非線形動力学の手法を用いて研究を進めた結果,分子レベル,細胞レベル共に,ゆらぎを排除せず,むしろそれを積極的に取り入れることによって生理的機能を実現している様子が明らかになって来ています。

■科学的・社会的意義 本研究は,生物の持つ柔軟性,環境適応性,低エネルギー性といった性質を実現するメカニズムを探る研究と言えますので,その科学的興味と共に,ノイズを排除することを前提としている従来の工学とは異なり,ノイズロバストあるいはノイズを利用する情報処理の仕組みの創出に資する可能性があります。

■参考文献 1)Nishikawa, M., Takagi, H., et al. (2008) “Fluctuation Analysis of Mechanochemical Coupling Depending on the Type of Biomolecular Motors.” Physical Review Letters, 101(12), 128103(4). ; Morimatsu, M., Takagi, H., et al. (2007) “Multiple-state Reactions between the Epidermal Growth Factor Receptor and Grb2 as observed by using Single-molecule Analysis,” PNAS, 104(46), 18013-18018.
2)Takagi, H., Sato, M.J., Yanagida, T., & Ueda, M. (2008) "Functional Analysis of Spontaneous Cell Movement under Different Physiological Conditions." PLoS ONE, 3(7), e2648. ; Sato, M.J. et al. (2009) "Switching direction in electric signal-induced cell migration by cGMP and phosphatidylinositol signaling." PNAS, 106(16), 6667-72.

■良く使用する材料・機器 1) Apple Mac Pro, Mac Book

H24年度分野別専門委員
奈良県立医科大学・医学部
髙木 拓明(たかぎ ひろあき)
https://www.naramed-u.ac.jp/~physc/index-ht.html