バイオセンサー
「免疫の力を利用した万能バイオセンサーを作る」
■背景
どんな病気も一瞬で診断する、そんな夢のセンサーを作るため、世界中で抗体タンパクの認識能力を利用する免疫センサーが研究されてきました。抗体は脊椎動物の免疫作用の根幹で、敵である抗原分子を見分けて結合するタンパク質です。
しかしセンサーとして使う場合、抗体の結合反応は他のタンパク質などの吸着と区別することができず、免疫センサーは未だに実用化されていません。そこで当研究室では、抗体の分子運動を直接測定することで、抗原の結合を検出する研究をしています。
図1 蛍光異方性免疫センサーの原理。蛍光の異方性は分子運動によって減少する。そこに抗原が結合すると分子運動が妨げられ、蛍光異方性が増加する。
図2 蛍光異方性による抗原検出の感度グラフ。1 pg/mLの濃度で蛍光異方性が変化している。
図3 マルチチャンネル免疫センサーのイメージ図。多種の抗体を基板に固定化し同時に複数の抗原を検出する。
■研究概要 抗原の結合による抗体分子の運動速度の低下を測定するために、蛍光異方性測定を用います。抗体分子に蛍光分子を結合させ、直線偏光で励起するとそこからの蛍光発光も励起方向に偏った偏光になります。この偏りの強さが蛍光異方性ですが、分子の運動が激しいほど、蛍光異方性は小さくなります。このため抗体が抗原と結合したことを、蛍光異方性の上昇として検出することができます(図1)。抗体の分子運動は物理吸着には影響されないので、何百種ものタンパク質が混じった血液試料からでも、特定の抗原だけを検出することができます。石英基板上に固定化された抗体により1 pg/mLの感度が得られました(図2)。さらに複数の抗体を基板上に固定化すれば、一度に数百種類の病原体を検出することができます。
■科学的・社会的意義
もし免疫センサーが実現できれば病気を一瞬で診断することができます。これは病気の治療だけではなく成人病の予防や伝染病の拡大防止にも役立ち、今後の高齢化社会で予想される福祉予算の削減にもつながります。
また、免疫センサーはタンパク質の立体構造モチーフを識別することができるので、新規タンパク質の構造解析や機能分類を高速で実施し、膨大なデータを蓄積することでタンパク質の分析やナノマシンの設計に貢献することができます。
■参考文献 1)S. Suzuki, et al. (2014). "High Sensitivity Antigen Detection by Fluorescence Anisotropy Decay Immunosensor." Proc. BMEiCON2014(Fukuoka).
■良く使用する材料・機器
1) 蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス)
2) 倒立顕微鏡IX(オリンパス株式会社)
3) 蛍光分子 (モレキュラープローブ)
4) 光電子増倍管 (浜松ホトニクス株式会社)
H27年度分野別専門委員
成蹊大学理工学部・生体工学/環境工学
鈴木 誠一 (すずき せいいち)