細胞工学
「細胞の分化・分裂・運動を工学で制御し、体作りの不思議に迫る」
■背景 生物の体は1個の細胞(受精卵)が増殖・分化・移動して、出来上がります。細胞といえども、様々な分子の集合体なので、何らかの物理法則に支配されているはずです。生物の体作りにどんな物理法則が潜んでいるのでしょうか?
図1 A~D: 小さなハンコを用いた細胞接着領域の造形(マイクロ・コンタクト・プリンティング)。E~G: 8枚刃のノコギリ型の中で培養した神経系の細胞(E)。細胞体と、神経突起の先端の位置の軌跡(F)と、その角度方向と時間変化(G)。
図2 既知の成分で作製した培養液で長期間培養したヒトiPS細胞の位相差顕微鏡像(A)と、未分化維持因子(SSEA4:緑、Oct3/4:赤)で抗体染色した蛍光顕微鏡像(B)。
図3 細胞工学によるヒト幹細胞の応用例
■研究概要 この疑問に答えるため、細胞の接着、分裂、分化、運動などを、工学技術を用いて条件を厳密に制御した上で、1個1個の細胞がどのように振る舞うかを顕微鏡で追跡しています。例えば、小さなノコギリ型の中に細胞を閉じ込め、ミクロ(細胞の接着点)のランダムな動きがどの様にマクロ(細胞レベル)の方向のある動きに変換されるのかを明らかにしました(図1、文献1)。また、既知の成分を色々と組み合わせて細胞培養液を作製し、細胞の状態を意のままに制御する技術も開発しています(図2、文献2)。試料は体の中の全ての細胞になる事ができるヒト人工多能性幹(iPS)細胞をはじめ、様々な細胞を用いています。
■科学的・社会的意義 本研究は、生物の体作りがどんな物理法則に支配されているかを解明するのに役立つ共に、工学技術で細胞を組み立てて失われた組織を補う再生医療などにも応用される事が期待されます(図3)。
■参考文献
1)Ohnuma, K., T. Toyota, et al. (2009). "Directional migration of neuronal PC12 cells in a ratchet wheel shaped microchamber." J Biosci Bioeng 108(1): 76-83.
2)Hayashi, Y., T. Chan, et al. (2010). "Reduction of N-Glycolylneuraminic Acid in Human Induced Pluripotent Stem Cells Generated or Cultured under Feeder- and Serum-Free Defined Conditions." PLoS One 5(11): e14099.
■良く使用する材料・機器
1) 蛍光顕微鏡システム Ti-E (株式会社ニコン)
2) 実験試薬 (和光純薬株式会社)
3) 冷却CCDカメラ オルカER (浜松ホトニクス株式会社)
H24年度分野別専門委員
長岡技術科学大学・生物機能工学
大沼清 (おおぬまきよし)
https://www.nagaokaut.ac.jp/j/annai/NUT-toprun/ohnuma0.html