生物物理の課題

生物物理学は、幅広い領域での生命現象を対象としています。空間スケールでは、ナノメートルの分子からマイクロメートルの細胞、ミリメートル~メートルの個体から地球規模の生態系まで。 時間スケールでは、フェムト秒の光吸収からミリ秒の生化学反応、秒~時の細胞運動や個体の成長、さらには何億年にもなる進化まで。生物物理学は生物を研究対象としますが、その研究は物理学や工学としても高く評価されています。

生物物理学は、例えばこんな問いに答えようとしています。

  1. 遺伝情報はどのように伝えられ、どのように使われるのか。
  2. 遺伝情報に従って生合成されたポリペプチドはどのように折り畳まれて機能を持つタンパク質になるのか。
  3. 酵素はどのようにしてその触媒活性を生み出しているのか。
  4. 生物はどのように化学エネルギーと力学的エネルギーを相互変換して動きや情報を生み出すのか。
  5. 生物はどのようにして光エネルギーを化学エネルギーや情報に変えるのか。
  6. 生体高分子の反応はどのように統合されて細胞活動を生み出しているのか。
  7. 脳ではどのように情報処理が行われているのか。
  8. 免疫や発生のような高次機能の仕組みはどうなっているのか。
  9. 生態系の活動や進化を解き明かす数理モデルはどのようなものか。

それぞれのレベルでの対象を研究するための方法論や測定技術の開発も、生物物理学の重要な課題です。国を挙げて開発している大型の研究装置(放射光、中性子、次世代コンピュータなど)の重要な利用分野は生物物理学であり、 これらの科学技術政策の策定や評価にも多くの生物物理学者が貢献しています。生物物理学の成果は、バイオテクノロジーや、創薬、医療の現場でも役に立っています。