Biophysics and Physicobiology論文賞

Biophysics and Physicobiology論文賞

日本生物物理学会では、Biophysics and Physicobiologyに掲載された論文のうち、生物物理学並びにBiophysics and Physicobiology誌に貢献した功績に対し、「Biophysics and Physicobiology論文賞」を贈っています。

歴代受賞者

Biophysics and Physicobiology論文賞規定

第7回Biophysics and Physicobiology 論文賞

 会誌58巻1号および学会ウェブサイトにて会員の皆様にご推薦をお願いした第7回Biophysics and Physicobiology 論文賞(旧BIOPHYSICS 論文賞)受賞論文が決定いたしましたので,ここにお知らせします.

 Yuki Nakamura, Kayo Hibino, Toshio Yanagida, Yasushi Sako
"Switching of the positive feedback for RAS activation by a concerted function of SOS membrane association domains"
Biophysics and Physicobiology Vol.13 pp. 1-11 (2016)

【授賞理由】

 細胞の情報伝達機構を分子レベルで,かつ生きている状態で解明する手法として,1分子蛍光顕微鏡観察は強力な手法である.細胞膜への情報伝達分子の結合・解離を実時間で観察することで,速度論的な解析を可能とするためである.本論文は,細胞の情報伝達系で重要な役割を果たしている低分子量Gタンパク質RASの活性化を調節するSOSの分子機構を全反射照明蛍光顕微鏡を用いて明らかにした.SOSは,RASのGDP-GTP交換反応を触媒するグアニンヌクレオチド交換因子GEFの一種であり,H, DH, PH, REM, Cdc25, Gと6つのドメインからなる.これまでSOSのRASの活性化にはポジティブフィードバックが働いていることは知られていたが,これらのサブユニットがどのように関与しているのかは不明であった.著者らはそれぞれのドメインを不活化する変異体を網羅的に解析し,さらには速度論的な解析を適用することで,ポジティブフィードバックの分子機構のモデルを提案するに至っている.その結果,HおよびGドメインが細胞膜への結合に重要であり,さらにはそれらのドメインが両方とも細胞膜に結合した中間状態Iが存在することを明らかにした.また,ポジティブフィードバックの発現には,両ドメインの膜への結合だけでなく,RASタンパク質の結合に関係するREMドメインのはたらきや,Hドメインの適切な配向が重要であることも明らかにしている.
本研究では1分子蛍光顕微鏡観察の手法が存分に発揮されており,多くの図表やデータに裏打ちされる堅実な研究がなされている.また,得られたデータを合理的に説明できるモデルを打ち立て,単なる観察からでは見過ごされてしまう中間状態を見出し,その情報伝達機構へのかかわりを明らかにしている.本研究は,生きた細胞内での情報伝達機構を解明する生物物理学的アプローチの顕著な例と考えられる.以上のことから,本論文に第7回Biophysics and Physicobiology論文賞を授与する.

2018年7月
Biophysics and Physicobiology 論文賞選考委員会


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