天然にないものの生物物理学
瀧ノ上 正浩
液液相分離が駆動する細胞内オルガネラ
下林 俊典, 大崎 雄樹
細胞内小器官(オルガネラ)の多くは液液相分離によって形成されることがわかってきており,その構造や機能の理解に生物物理学的アプローチがますます重要になってきた.本稿では,液液相分離が駆動するオルガネラである脂質ラフトと脂肪滴などについての著者らの最新成果を中心に紹介する.
ヘビの多芸多才なロコモーションに内在する自律分散制御則
加納 剛史, 石黒 章夫
様かつ適応的な振る舞いを示す.筆者らは,この多芸多才な運動知能に内在する自律分散制御則を解明するため,行動観察実験・数理モデリング・ロボット実機実験を組み合わせた構成論的アプローチを展開している.本稿ではその研究成果を報告する.
ウシ心筋シトクロム酸化酵素の活性化型単量体構造
伊藤(新澤) 恭子, 村本 和優
シトクロム酸化酵素は2量体の結晶構造に基づいて分子機構が解明されてきたが,ミトコンドリア膜中ではほとんどが単量体または単量体が複合体I,IIIと会合した超複合体として存在する.本稿では,単量体と2量体の活性と結晶構造を詳細に比較し,膜内で単量体は活性型,2量体は待機型として機能する可能性について述べる.
ミトコンドリアタンパク質搬入ゲートTOM複合体の立体構造
荒磯 裕平
TOM複合体はミトコンドリア表面に存在する膜タンパク質複合体で,ミトコンドリア内部へタンパク質を取り込むための搬入ゲートとしての役割を担う.最近,筆者らはTOM複合体のCryo-EM構造を3.8 A分解能にて決定することに成功した.本稿では,構造解析によって明らかになったTOM複合体によるタンパク質輸送メカニズムを紹介する.
大腸菌染色体複製サイクルの試験管内再構成と合成生物学
末次 正幸
試験管内再構成は,部品から細胞の振る舞いを創って理解するボトムアップ合成生物学のアプローチであるが,革新的なバイオテクノロジーのツールにつながることがある.染色体複製サイクルの試験管内再構成研究は,新しいDNA増幅ツールを生み出し,ゲノム合成といったトップダウン合成生物学にも発展しうるものであった.
過渡的に生じる中間体ヌクレオソームにおけるヒストンテール動態の解析
亀田 健, 粟津 暁紀, 冨樫 祐一
ヌクレオソームは生体内で様々な構造制御を受けるが,その変化の過程で生じる「部分的に壊れた」状態についての知見は限られている.我々は,ヒストンの一部が欠落したヌクレオソームの構造動態をシミュレーションし,構造の安定性や動態の変化と,そこでのヒストンテールの隠れた役割を見出した.
ナノディスクの物理化学的特性の解明
中野 実
脂質―タンパク質複合体であるナノディスクは,膜タンパク質の構造・機能評価のツールやドラッグデリバリーシステムに応用されているが,粒子自体の特性について不明な点も多い.本稿では蛍光分光法などの手法と物理化学的な解析によって明らかになったナノディスクの形状や粒子のもつ脂質二重層の特性について解説する.
鋳型複製系における種の起源
鳥谷部 祥一, BRAUN Dieter
原始環境において遺伝情報はいかに生まれたのだろうか.我々は,鋳型複製系と呼ばれる原始スープのモデル系に適当な非平衡条件を課すと,遺伝情報を保持する生物種のような非平衡構造が自発的に形成する可能性があることを発見した.情報複製について概観した後で,鋳型複製が発現する豊かな現象について解説したい.