「競争」から「共創」へ
相沢 智康
DNAナノチューブのレール上をプログラム通りに自走するナノマシン
指宿 良太,古田 健也
生物分子モーターは化学エネルギーを運動に直接変換する驚くべき分子機械であるが,その動作原理は本質的には理解できておらず,自在な応用のためにカスタマイズすることは困難であった.本稿では,ダイニンとDNA結合タンパク質を組み合わせ,DNAナノ構造に沿って動く新しいDNAモーターを構成した例を紹介する.
非熱的なゆらぎが分子モーターキネシンを加速させる
有賀 隆行,立石 圭人,富重 道雄,水野 大介
生きた細胞内では,熱ゆらぎだけでなく非熱的なゆらぎもアクティブに生み出されていることが近年明らかになった.本稿では,生体分子モーターのキネシンに細胞内の非熱的なゆらぎを模倣した外力ゆらぎを加えた結果,高負荷下で速く動くようになったという私たちの最近の発見と,その理論的・生理学的解釈について解説する.
生物界最速のミオシンの構造-機能相関
伊藤 光二,原口 武士,玉那覇 正典,鈴木 花野,村田 武士
生物界最速ミオシンが淡水産藻類シャジクモに存在することが予見されていたが,その実体は不明であった.最近,私達はそのクローニングに成功し,さらに,最速のミオシンクラスであるミオシン11 の高解像度結晶構造解析に世界で初めて成功し,最速ミオシンの秘密はアクチンとの結合領域にあることを明らかにした.
Large pore channelの構造とチャネルの開閉メカニズム
大嶋 篤典
Large pore channelはイオンや水分子のほか,核酸やアミノ酸などの代謝産物を通す大きな通路を持つが,その開閉の構造基盤は明らかではない.脂質ナノディスクを用いたクライオ電子顕微鏡法によって,タンパク質―脂質間の相互作用がチャネルの構造変化と通路の開閉に深く寄与する可能性を示した.
病原菌の生存戦略:ヘム濃度センサータンパク質PefRの作動メカニズム
澤井 仁美
動物の血液に感染し「ヘム鉄」を栄養として生きている病原菌は,どのようにしてその濃度を感知し,摂りすぎによる毒性を回避しているのだろうか?ヘム濃度センサータンパク質PefRの作動メカニズムから,その謎に迫る.
高速原子間力顕微鏡で明らかになった細胞間接着分子カドヘリンのダイマー形成過程
西口 茂孝,古田 忠臣,内橋 貴之
多細胞動物のからだの形作りは,隣り合う細胞と細胞をつなぐカドヘリン間の結合によって制御されているが,その結合機構については不明な点が多かった.高速原子間力顕微鏡を用いて,溶液中におけるカドヘリンの結合過程を一分子のスケールで直接可視化することで,カドヘリンの結合機構を解析した.
コンビニエントなRNA切断ツールCRISPR-Cas7-11のクライオ電子顕微鏡構造解析
加藤 一希,西増 弘志
Cas7-11はガイドRNA依存的に特定のRNAを分解する酵素である.筆者らは,クライオ電子顕微鏡を用いてCas7-11の立体構造を決定し,さらに構造情報をもとにCas7-11の小型化に成功した.小型Cas7-11はコンビニエントで使いやすい,RNAノックダウンツールとしての応用が期待される.
単一イオンチャンネルの簡便計測システム
平野 美奈子,朝倉 真実,井出 徹
人工膜法は,チャネルタンパク1分子を流れる電流を高時間分解能で計測できる強力な研究ツールであるが,その測定効率は低い.我々は,新しい人工膜作製&タンパク組み込み法を開発,単一チャネル電流計測の自動化により,高い測定効率を実現した.さらなる効率化を目指して多チャンネルの同時計測システムの開発にも取り組んでいる.
SATORI法:新型コロナウイルスの超高感度・世界最速検出技術
飯田 龍也,篠田 肇,渡邉 力也
感染症診断に汎用される抗原検査やPCR検査には感度や時間にトレードオフが存在する.著者らは,これらを両立する新たな核酸診断技術:SATORI法を開発した.CRISPR-Casと1分子定量法を組合せ,~9分の短時間で6.5 aMの高感度を実現した.社会実装を目指した技術/装置開発の現状や展望を紹介する.