今がチャンス!
村田 武士
オルガネラグルー技術による植物メタボロームの人為操作
石川 一也,児玉 豊
植物細胞は変動環境に応じて,オルガネラの配置や相互作用を変更することで,代謝活性を調節することが知られている.これはすなわち,オルガネラの相互作用を人為的に操作することができれば,有用な代謝活性を持つ植物の作出が可能であることを意味している.近年,我々は「オルガネラグルー」という,蛍光タンパク質の多量体化を利用してオルガネラ間相互作用を操作する技術を開発した.さらに,この技術を利用して,経路レベルで代謝活性が改変されている形質転換植物の作出に成功した.本総説ではオルガネラグルー技術の現在の状況について解説したい.
統計熱力学計算と進化分子工学を用いたGPCR安定化変異体の創出手法
安田 賢司
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は重要な創薬標的であるが,本質的に不安定あり,すぐに変性してしまうことが研究の大きな障害となっている.本稿では,統計熱力学に基づく独自の理論的手法と進化分子工学を組み合わせることにより構築した,安定化変異体の創出手法について紹介する.
アスガルドアーキアの持つ内向きプロトンポンプ型ロドプシン:シゾロドプシン
井上 圭一,今野 雅恵,川﨑 佑真,María del Carmen MARÍN
シゾロドプシンは真核生物の最終共通祖先に最も近縁な現生種のアスガルドアーキアから見付かった光駆動型内向きH+ポンプロドプシンであり,アスガルドアーキアが光を使って生きている可能性を示唆するものである.H+輸送機構など多くの点でシゾロドプシンは他のロドプシンと異なる.その最新の研究を解説する.
高静水圧で誘発される心筋細胞の緩やかな収縮現象
山口 陽平,森松 賢順
高静水圧環境において,心収縮能が亢進することが長年知られてきた.しかしながら,その機能亢進メカニズムの解明には未だ研究の余地があった.本稿では,著者らが新たに発見した,心筋細胞の高静水圧誘発性収縮現象とそれに伴う分子メカニズムモデルについて紹介する.
大腸菌の多次元表現型計測に基づく適応度地形の推定
古澤 力,岩澤 諄一郎,前田 智也
適応度地形を推定することは,進化過程の理解に大きく貢献する.しかしゲノム配列空間においてその推定を行うことには,膨大な実験データが必要となり困難が伴う.本稿では,大腸菌の抗生物質耐性進化の過程において,複数薬剤への耐性能を経時的に計測し,その表現型データに基づいて適応度地形を推定する手法を紹介する.
なぜ指は5本になるのか?体の座標を決める仕組み
田中 庸介
発生過程における手の原基である体肢芽には,後から前方向へのソニック・ヘッジホッグタンパク質の濃度勾配が存在する.これが崩壊する多指症マウスの解析から,PI3Kシグナルの遠近勾配により外縁の拡散層と中心の捕捉層が分化し,特殊拡散系の形成により外縁に濃度勾配が維持されていることが示唆された.
ATP合成酵素から進化したマイコプラズマ滑走モーターの構造
豊永 拓真,宮田 真人
魚病原菌であるマイコプラズマ・モービレの滑走運動は,ATP合成酵素から進化したと考えられるモーターによって駆動されている.私たちはその特殊なモーターを単離し,電子顕微鏡解析によってその三次元構造を明らかにした.その構造はATP合成酵素の二量体が鎖状に連なったような新奇なものであった.
呼吸鎖酵素に隠された新規アロステリーが導く特異的抗菌薬の創出
西田 優也,新谷 泰範
構造解析,ラマン分光,計算科学等を組み合わせ,呼吸鎖酵素の新規なアロステリーを解明した.“幅広い種で保存されたコア構造と真核生物が獲得した追加のサブユニットとの間にアロステリック阻害部位が存在する”という仮説をもとに,生物が普遍的に有する呼吸鎖酵素が標的でありながら,特異的抗菌薬の創出に成功した.
核磁気共鳴静電ポテンシャル測定による非膜オルガネラ形成の分子機構の解析
外山 侑樹
非膜オルガネラは,天然変性タンパク質同士の分子間相互作用により媒介された液―液相分離により形成される.本稿ではCAPRIN1を対象とし,溶液NMR法による静電ポテンシャル測定を活用することで,静電反発と分子間相互作用の均衡が相分離を制御する分子機構を明らかとした研究について概説する.
支部だより ~中部支部講演会の開催報告・研究室紹介~
古谷 祐詞,内橋 貴之,矢木 真穂
若手の会だより ~北海道支部「研究を知り,キャリアを考える」~
柴垣 光希
海外だより ~構造解析ソフトウェア開発の本場から~
山下 恵太郎