ダークサイドの入り口で
岡田 眞里子
巨大ウイルスから発見された光でプロトンを輸送するヘリオロドプシン
細島 頌子,角田 聡,神取 秀樹
私たちは円石藻に感染する巨大ウイルスの持つヘリオロドプシンが光でプロトンを輸送するイオンチャネルであることを世界で初めて明らかにした.本稿ではヘリオロドプシンの発見から機能の解明,さらにイオン透過のメカニズムについて紹介する.円石藻ウイルスは光とヘリオロドプシンを利用してブルーム(白潮)の消失に関与している可能性も考えられ,ヘリオロドプシンの研究は地球環境の観点からも注目されている.
「細胞壁」「巨大液胞」「原形質流動」―植物細胞のユニークな物理的特性を細胞骨格はどのように作り出すか
高塚 大知,甘利 俊樹,富永 基樹
植物は芽生えた場所で力強く成長するため,物理的強度を付与する「細胞壁」と,膨圧を発生させ細胞成長を駆動する「巨大液胞」を発達させる.また,巨大な細胞内で物質循環を担保するため,活発な「原形質流動」を起こす.本総説では,このような植物細胞のユニークな物理的特性を,細胞骨格が作り出す仕組みを解説する
先にプロトンを受け取るか,先に向きを変えるか
水谷 泰久
従来とは輸送方向が逆向きのプロトン輸送体ロドプシンが発見され注目を集めている.時間分解共鳴ラマンスペクトルから,発色団がプロトンを受容する孤立電子対の向きが,輸送方向に対応して逆になっていることが明らかになった.これは,プロトン受容と立体配置変化の順序が輸送方向の決定因子であることを示している.
局所熱パルス法が示すドレブリンEによるアクトミオシン制御の精密温度センシング
久保田 寛顕
アクトミオシン運動の温度依存性を制御するという,アクチン結合タンパク質の新たな役割が見え始めている.本稿では,神経細胞の成熟等を支えるドレブリンEにも,温度変化に対するアクトミオシン運動の感受性を高め,特に生理的温度で顕在化する協同性を通して巧みに制御する機能があることを紹介する.
酵母における遺伝子スイッチ進化工学ワークフローの「ロバスト化」
冨永 将大,近藤 昭彦,石井 純
遺伝子発現をON・OFF制御する「遺伝子スイッチ」は,生物機能の解明や新規創出に重要であり,その改良や改質の技術が強く求められている.本稿では,真核生物である酵母の遺伝子スイッチについて,性能の向上した変異体を効率良く濃縮できる新規選抜系の開発と,これを用いて確立した進化工学ワークフローを紹介する.
大腸菌の代謝動力学モデルにおける成長状態と休眠状態の出現
姫岡 優介
大腸菌をはじめとした多くの細菌は「休眠状態」と呼ばれる,成長速度が非常に低い代わりに強いストレス耐性を持つ状態へと遷移することがある.我々は,大腸菌代謝の数理モデルが休眠状態に類似した状態へと遷移することを見出し,また,この遷移においてATPといった補酵素が重要な役割を担っていることを明らかにした.
血管内皮細胞の挙動から導かれる多様な血管パターン形成の数理モデル
今村 寿子,平野 才人,水谷 健一
発生期マウス大脳皮質で見られる特徴的な血管構造の形成には,細胞挙動を制御するガイダンス分子が関与していると考えられるが,そのメカニズムは明らかになっていない.ガイダンス制御がどのように血管パターンを規定しうるか,数理モデルを用いて検討した研究を紹介する.
乳酸の新たな役割に光を当てるLACCO(ラッコ)シリーズの開発
那須 雄介
何かとネガティブな印象がある「乳酸」.実はエネルギー源やシグナル分子として重要であることがわかってきた.この古くて新しい分子「乳酸」を生細胞や動物で観察可能な蛍光バイオセンサー“LACCOシリーズ”を開発した.本稿では,タンパク質工学によるLACCOシリーズの開発とその性能を概説する.